田舎・地方に行ってみたものの、モール型スーパーとチェーンの飲食店が並び、広い駐車場以外に見るものはなかった。などとがっかりした経験はないだろうか。
正反対に、「文化と自然で勝負する」という町が富山県南砺市だ。コンセプトは“一流の田舎”であり、観光客などの面で「結果」も出しているという。その秘訣を市長に聞いた。
人口約4万7000人の南砺市は、世界遺産に登録される五箇山の合掌造り集落など、四季折々の表情をのぞかせる豊かな自然が魅力だ。
南砺市は、2004年に富山県内8つの町と村が合併して誕生。どこか懐かしさを感じさせる、日本の原風景が今も色濃く残っている。そんな南砺市が目指しているのが“一流の田舎”だ。
“一流の田舎”について、南砺市の田中幹夫市長はこう説明する。
「国道沿いにナショナルチェーンがどこに行ってもある。そういう町ではなく、土地の豊かさ、もしくは暮らしに感謝と誇りをもって、お互いを信頼し合って、誰一人取り残さない地域社会を作っていく。というところが私の考える一流の田舎です」
2008年の初当選以来、約15年市長を務めてきた田中市長。世界遺産の合掌造り集落や、民謡といった先人たちが築き上げてきた伝統を生かしたまちづくりを展開。
世界的な芸術イベントをこれまで数多く開催し、2010年には「文化芸術創造都市」にも選出された。2021年には約250万人の観光客が訪れたという。
そして、田中市長が魅力だと話すのが町の“素朴さ”。
「南砺市は大きなスーパーも何もないが、息遣いが感じられるようなおとなしい町。生活が見える中で、海外から来られた方も住民のみなさんと交流している」
こうした南砺市の町づくりの主役は行政ではなく住民たち。南砺市では、住民が自分たちで地域の課題を解決していく「小規模多機能自治」という手法を取り入れ、お年寄り向けのサロンの設立や、空き家の再活用など、住民が主体となって住みやすいまちづくりを行っているという。
「井波という町はここ数年で42軒の空き家がお店や事務所、ゲストハウスに変わった。住民の皆さんの力で背中を押したり、信頼関係からできてる」
近年では南砺市での暮らしを体験できる移住体験ツアーなど、移住・定住事業も積極的に導入。こうした取り組みが評価され、『田舎暮らしの本』(宝島)の『住みたい田舎ランキング』で8年連続北陸エリア1位を獲得した。
また現在では、都市部の小学3年生〜中学3年生の児童を対象に山村留学『南砺利賀みらい留学』も実施している。
「月の20日間ぐらいは寮で生活して、残り10日間はホストファミリーの家で滞在しながら学校に通うというプログラムがある。来てくれた人も『1年間でかなり成長していく』と言ってくれたが、受け入れ側にいた地元の子どもたちが更に成長してる。学校の文科省のカリキュラムとか、指導要領だけでは絶対に発揮出来ない力を交流によって、成長させるということをもう一度しっかり考えねばと思った」
“一流の田舎”まで、いまだ道半ばと話す田中市長。目指すのは、都市と地方が連携した共生社会の実現だという。
「日本が今後どういう社会・未来を描いていくのかが大事だと思っている。そこをリードしていく、そういう南砺市でなくてはいけないと。微力だが、そういったことを発信していきたい」
田中市長に実際に会ったことがあるという、元岩手県議で雨風太陽代表取締役の高橋博之氏は「文化をここまで語る市長は初めてだ」と絶賛した。
「いろんな自治体の組長に会ってきたが、みんな経済の話をする。経済の話をすると、効率優先になって、都会並みにほしいものが得られるような同じ風景ができていく。そうなるとどこまでいっても三流都会のままで、一流の東京には追いつけない。ところが、田中さんの言う一流の田舎というのは、唯一無二の文化的土壌と人との関わりがあって、人でいう人徳のような、“土徳”がある」
土徳以外にも、一流の田舎で大切なものはあるのか。。
「それは歴史。土地固有の自然に立脚し、さまざまな風土や歴史を育み、大切に受け継ぎ、次に受け渡そうとしている生き様自体が魅力的だ。コロナ禍において、ドイツの元首相のメルケルさんは『アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ』とリーダーとしての指針と文化の大切さを示したが、田中市長のメッセージも同様にこれからの町の進むべき道を示している。僕らはこの世に生まれてきた以上、何かを伝えたり、表現したりして、それに共感してくれる人がいて、初めて生きている実感をもてる。田中市長はそういう村づくりをすることで都会の人からも世界の人からも集まってくると信じているんだ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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