最高裁判所によると、相続人不在で国に入った財産額が2021年度に647億円となり、過去最高を記録した。この財産は、家庭裁判所が専任した相続財産管理人が税金などの未払い、生前にその人のお世話をした「特別縁故者」がいないかなどを確認し、残った額全てが国に入る。一人暮らしの高齢者が増えたことなどを背景に、この10年で1.4倍に増加している。
福岡市に暮らす山口さん(仮名・84歳)もかつて財産相続に悩んだ1人。4年前に夫を亡くし、現在1人暮らしをしている。「人って、年寄りが1人になって子どももいないと遠のく。現実だなあと思った」。親戚もいっせいに離れていったそうだ。
具体的な財産の相続案もない中、支援したのが、終活相談を行う一般財団法人「ウェルネスサポートLab」に所属する社会福祉士の吉武ゆかり氏だった。山口さんはアドバイスを受けながら、自らが望む相続先を1年間考えて遺言書を作成。亡くなった後の葬儀や遺品整理は代理人に依頼するなど、財産の行方を含め納得いく終活ができた。
自分が残す財産をどう活かしたらいいのか。『ABEMA Prime』で2人とともに考えた。
■「自分のお金をどう使うかはまさに生き方そのもの」
山口さんの例は珍しく、相談に100人来たとしても実際に取りかかるのは3人程度の割合だという。吉武氏は「遺言を書く、自分の最期を決めるということを日本人はやってこなかった。老いては子に従えではないが、“子どもや身内に任せておけば大丈夫”でやってきた時代が長い。その感覚の人がどんどん亡くなっていて、こういう状況が起こっているのではないか」との見方を示す。
終活相談会では、「終活=自分が死ぬ時を考えないといけない、それが辛いという人」「90歳を過ぎて相談に見えても『まだまだ死なない』『その時が来たらやります』と言って帰られる人」がいるそうだ。
吉武氏は、相続人がいない財産が国庫に入ることに「問題はない」とするものの、「国庫に入るとお金の使い道を決めるのは国で、本人ではない」「遺言書があれば本人が望む活かし方ができる」として、財産の使い道は本人が決めることを勧めている。
「遺言を早く書くというよりは、書く準備をすること。自分がどんなふうに生きてきたか、これからどう生きていきたいのか。自分のお金をどう使うかはまさに生き方そのものだ。自分の価値観を明らかにできないと終活はどの手続きもできない。遺言を書くには能力があることが前提で、遺言能力が難しいと公証人が判断したら書くことができない。意思をきちんと示すことができず、法定相続のとおりに進むことになる」
■「毎日が楽しくて、すっきりしている。スキップが出そうだ」
山口さんは終活で整理ができたことで、「毎日心配事が一つもない。朝起きたら身が軽い。何かあると吉武さんにお願いしているので力強いというか、肩に風船をかけているという感じだろうか。毎日が楽しくて、すっきりしている。スキップが出そうだ」と話す。
終活を始めるタイミングについて、吉武氏は「何歳からでもいい。早すぎることはない」としているが、山口さんはどう考えていたのか。
「自分の意識がはっきりしていて、健康で体が動く時期だと思う。私は子どもがいない夫婦で、“白髪が生えるまで2人でしっかり生きましょう”と約束して、主人が4年前に亡くなった。60歳ぐらいの時からきちんと計画して、捨てられるものは捨てて、いらないものは買わない、とやってきた」
吉武氏は「40代ぐらいから“プレ終活”をしたほうがいい。山口さんほど明確に価値観や優先順位が整っている人は少ない。私自身も、自分が何を大切に生きてきたかや、何に一番時間を使ってきたかなど、自分を見つめ直すことはとてもできていなかった。40代から始めて日常的に続けていると、60代70代になって“そろそろ考えを整理しようかな”という時に、終活が具体的に回り出すと思う」と補足した。
タレントの田村淳は大学院で「遺書」を研究した経験から、「若ければ若いほどいいと思っている。理由は、遺言にしても遺書にしても何回書いてもいいと思うから。うちの母ちゃんは2年前に死んだが、僕が20歳になった時から『延命治療しないでね』と誕生日ごとに言っていた。この遺書の履歴がすごく重要で、“20年前はこう言っていた”“10年前はこう言っていた”、じゃあ今はどう言っているのか。履歴があるからこそ言葉に重みが出てくると思っている」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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