5月5日に行われた京セラドーム大阪のオリックス・バファローズ対埼玉西武ライオンズで先発し、7回を投げて無失点、8奪三振という好投を見せてマウンドを降りたオリックス山下舜平大。
【映像】“新たな怪物”の秘密
ローテーションの関係もあり、今回の対戦相手でる西武とは、山下にとってプロ初登板である開幕戦をはじめ、これまで3度対戦しているが、本日の試合前の段階で山下は、西武に対し2試合の先発で12回1/3を投げて、自責点1の防御率0.73、15奪三振をマークするなど、「山下vs西武」という意味では山下に分があった。
実際、山下が西武と対戦した過去の内容を見ていくと、まず3月31日にベルーナドームで行われた埼玉西武ライオンズとの開幕戦で、プロ初登板を果たしたの山下は、通常ならばプレッシャーのかかるマウンドであったにもかかわらず、5回1/3を投げて1失点、7奪三振という見事な投球を披露。4月23日に行われた埼玉西武ライオンズ戦(京セラD大阪)でも、ストレートとカーブ、今シーズン習得したフォークという少ない球種で西武打線を翻弄し、7回をゼロ封。今季2勝目を飾った。
この時点で山下は、今季3試合に登板し、17.1回を投げて失点・自責点ともに1。防御率0.52という、デビューイヤーとは思えない成績を残すこととなったが、こうした山下の好投に、ファンはもとより、球界関係者からも称賛の声が続出。たとえば、元・千葉ロッテマリーンズの里崎智也氏は、開幕戦での好投をチェックし、「3年後のWBC、ひょっとしたら主戦で投げている可能性も十分考えられる。(ポテンシャルが)ある」とコメントまた、NPB・MLBで活躍した野球解説者の五十嵐亮太氏も、4月14日に放送されたABEMAの『バズ!パ・リーグ』で、「珍しいですね。今、いろんな変化球を投げるピッチャーが増えているんですけれども、やっぱり少ない球種で抑えられるというのは、ポテンシャルというか、1つ1つのボールが他のピッチャーよりも秀でてないと、なかなか抑えられないので、そうした意味でいえば、1つ1つのボールが“超1球品”ということだと思います。」と、様々な球種を駆使して打者を打ち取る投手が目立つなかで、少ない球種で勝負する“怪物”山下が好投している背景として、それぞれのボールの完成度が高いことを指摘しつつ称賛していた。
そもそも、こうした山下の“怪物”ぶりは、開幕前から指摘されており、たとえば昨年まで西武の指揮官として采配をふるっていた野球解説者の辻発彦氏も、その強心臓ぶりを含め、五十嵐氏と同様に、完成度の高さを指摘。阪神タイガースの岡田彰布監督や、野球解説者の谷繁元信氏、藤川球児氏など、称賛のコメントを寄せた球界関係者は少なくない。
そうした中で迎えた5月5日の一戦は、西武側にとって、今後を見据えた上でも、なんとしても山下を攻略したいところであったが、蓋を開けてみれば山下に7回をゼロ封。山下がマウンドを降りるまでに6安打を放っていながらも、後続を絶たれ、得点に結びつけることはできなかった。しかし、「対・山下」という点でいえば、攻略の糸口さえないかといえばそうではない。なぜなら、現時点で山下に「失点1」を与えているのも、西武打線であるからだ。前述の通り、山下は開幕の西武戦でプロ初登板をした際に、5回1/3を投げて1失点であったが、この「1失点」があった場面を、ここで改めて振り返ってみたい。
実は、両チーム無得点で迎えたこの試合の4回裏・西武の攻撃で山下は、1~3回までとは違い、回の頭から、カーブを多く投げはじめたが、これを西武の各打者が慎重に見極めている。たとえば、この回先頭の3番・外崎修汰に対しては、山下は初球から3球カーブ(いずれも124km/h)を続けているが、外崎はこれに手を出さずに見送り、ワンバウンドで外れたフォークを挟んだ5球目、ほぼ真ん中のストレート(156km/h)をセンター前へと弾き返して出塁。無死1塁の場面で迎えた4番・山川穂高に対しては、初球こそ真ん中高めのストレート(153km/h)で空振りを誘うも、そこから4球続けて投じたカーブ。しかし山川はこれらのカーブに手を出さなかった。結局、山下は山川を見逃し三振に切ってとることに成功したものの、続く5番・栗山巧に投じた外角のストレート(154km/h)を狙い打たれ、1塁から外崎が長躯ホームイン、プロ初の失点を喫することとなった。
もともと少ない球種で勝負する山下は、ストレートの占める割合がおよそ6割、カーブが約3割前後、残りの約1割が今季から投げるようになったという、“野茂英雄氏直伝のフォーク”となっているが、現状、カーブについては、空振率よりも見逃率の方がかなり高く、打ち取れるかどうは別にして、「見られる」傾向にあることがわかる。このことは、ストライクが入れば山下の有利に働くが、入らなければ仇になることを意味しているともいえ、逆にいえば、カーブが相手チームにとっての攻略の糸口になり得る可能性も否定できないというわけだ。なお、5月5日の一戦では、山下のカーブが目立った場面は、2回表・2死一、三塁の場面と、5回表・1死一、二塁の場面という、いずれも得点圏に走者を背負っての場面であったが、そのいずれも西武打撃陣は仕留め切ることができずに終わっている。
おそらく、西武打撃陣も、山下のカーブをある程度意識してこの試合に臨んだと推測されるが、それでも山下の前に零封されたのは、やはり五十嵐氏や辻氏が太鼓判を押す「ボールの完成度」ゆえのことであろうし、山下の投球内容が1試合ごとに良くなり、急速に進化し続けている点も、攻略しきれない一因となっているかもしれない。今後、西武をはじめとする他球団が、山下をどのように攻略するのか、また、山下がどのように翻弄し続けるのか、注目したいところだ。
(ABEMA『バズ!パ・リーグ』)