「お医者さんへの謝礼・心づけは絶対に渡したほうがいい。結局は医者も人間。対応やオペの丁寧さに必ず差が出る」(Twitterより)
先日、研修医を名乗るアカウントがこのようにツイートし、物議を醸した。入院や手術の前に医師へ謝礼を渡すことで対応がガラッと変わるという、いわゆる“袖の下”だ。
Twitterでは「ドラマの話?本当にこんなことあるの?」「心づけは礼儀の領域だと思っていた」「謝礼で差が出るって、そんな医者嫌だよ」など、賛否両論が入り乱れる事態となった。
日本医師会の倫理指針によると「患者から謝礼を受け取ることは慎むべきである」との記載があり、「過度な期待を抱かせるほか、慣習化すれば医療全体への国民の信頼を損なう」とされている。
医療現場で“袖の下”は存在しているのか。仮に存在するとすれば、アリなのかナシなのか。『ABEMA Prime』では、その実態を現役の外科医とジャーナリストに聞いた。
「医師への謝礼」は存在? その実態とは
外科医の中山祐次郎氏(湘南医療大学臨床教授)は「このツイートの内容を真に受けるのはどうかと思う」としながらも実態をこう語る。
「月に1回か2回は必ず“先生お願いします”、“ありがとうございました”などと封筒を渡されそうになる機会はある。私は基本的に全部断ることにしている」
「“勘弁してください”と言って断るが、なかには白衣のポケットにねじ込むようなかなり強引な方もいる。そうすると私も怒るので、人間関係は悪くなることがある」と明かした。
一方で、他の医師を含めた状況については、「正直、医者の間でこの話はあまりしない。だが、過去に勤めた病院では、私が先述のような押し問答を診察室でやった時に、看護師や事務の方が来て“先生以外、全員もらっていますよ”と言われたこともあったので、かなりの医師がもらっているのではないか」との見方を示した。
なぜ中山医師は“絶対に受け取らない”のか。「自分の心に、他の患者さんよりも優先する・手心を加えるといった影響が出るのが嫌なので、私は受け取りたくない」と説明。
また、「謝礼を受け取るドクターであっても、もらう・もらわないで手術の頑張りを変えるということは本当にないと思う」とし、「渡しても渡さなくても結果は変わらないのであれば、渡さないほうが良くないだろうか。もったいないだけだ」と指摘した。
謝礼の有無で“対応”は本当に変わらないのか? 海外の事例や課題とは
一方、専門家は謝礼についての現状や問題点をどうみているのか。
医療ジャーナリストの市川衛氏は「かつてのハンガリーでは、医療保険加入者は医療を無料で受けられるが、医師や看護師の給料が非常に低く抑えられていた。その一方で、患者は手術を受ける時に、日本円で4万円程度は“包むもの”というのが事実上決まりになっていた。それが問題になって、2020年に“医師に対する心づけを禁止にする”という法律を作り、謝礼を渡した患者側も罰を受けるようになった経緯がある」と海外の事例に言及。
さらに「患者がお金を手術前に渡すのは、医師を信頼してないということ」とも指摘。「患者は、病気になって治療を受けるという意味で、医師と比べて立場が弱い。どうしても、お金を出してでも“リスクを減らしておこう”と思ってしまう部分がある。だからこそ、強い立場にある医療者側が“我々は受け取っても受け取らなくても変わらない。だから謝礼はいらない”ともっと強く発信してほしい」との見方を示した。
中山医師は「謝礼を渡すというのはすなわち“自分や親の命だけはなんとか”と抜けがけしたい気持ちが強いということ。そこからの脱却がまず必要だ。きれいごとかもしれないが、医療は公共のもので、謝礼を渡す行為は、市役所で“100万円渡すから転居届を早く受理して”と言っているのに近い。そんな不合理なことをみなさんはしようとしている」と苦言を呈する。
患者から医師に対する感謝の表現方法については「病院に寄付をしていただく方法がひとつ。それと、お手紙を書いていただくのはどうか。私は患者さんからいただくとすごく嬉しい。心を込めて書いた手紙は医師にとって一生の宝物になる。謝礼でもらう数万円どころの価値ではない」と、述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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