<大相撲五月場所>◇十日目◇23日◇東京・両国国技館
この力士においては「棒立ちはダメ」という定説が通用しない。前頭十一枚目・北青鵬(宮城野)が、前頭六枚目・明生(立浪)に圧倒されながらも土俵際で驚異的な粘りを見せて、大逆転の上手投げ。8勝目(2敗)を挙げて勝ち越しを決めるとともに、優勝争いにも踏みとどまった。身長204センチ・体重185キロという抜群の体格、体幹の強さ、バランス力を備えたスケールの大きい相撲が魅力の力士だが、上体が起き上がり真っすぐになった、いわゆる「棒立ち」であるにもかかわらず、土俵際いっぱいで相手の猛攻をしのぎ切ってしまう取り口に、相撲関係者やファンからは「異次元の相撲」「普通じゃ考えられない」驚きと戸惑いの声が続出している。
腰を落として上体は低く、相手を下から上へと突き上げるように。少し相撲に触れたことがある者なら、理想形としてこんな言葉を何度も聞いただろう。膝や腰が伸び、全体が真っすぐになってしまうと横からの圧力に極端に弱い。これが「棒立ち」の状態で、あとは相手に押されて土俵を割るのみ、というのがパターンだった。
ところが北青鵬は、棒立ちでも負けない。むしろこの方が強い。好調・明生との一番は、立ち合いでやや変化を見せてまわしを取りにいったが、明生の鋭い出足に押され、あっさりともろ差しを許した。一気呵成に攻めてくる明生に、北青鵬は防戦一方。あっという間に足が俵にかかった。しかし、ここから明生がいくら必死に寄ろうとも北青鵬の足が外に出ない。俵にはつま先の部分しかかかっていないにもかかわらず、大きいながらも柔らかい体を大きく反らして圧力を吸収。攻めの勢いが衰えたところで反撃に移ると、最後は強引ながらも強烈な上手投げでねじ伏せた。
豪快というよりも大味な取り口で、荒削りでもある。ただしそれでも勝ってしまう。相手の全てを飲み込んでしまうような相撲は「棒立ち」という概念を覆してしまうほどだ。ファンや関係者から「この力士は普通じゃ考えられない相撲を取る」「膝をほぼ曲げないで相撲を取る」「異次元の相撲見ました」「何であそこ棒立ちで残れんねん」と、戸惑いの声が出るのも無理はない。土俵に大きくそびえる棒、というよりも柱。これから他の力士はどうやって、この柱を倒せばいいのか。
(ABEMA/大相撲チャンネルより)




