一流ドライバー同士の譲れないバトルの末に起きてしまうクラッシュ。ドライバーやチームにとっては悲痛な瞬間だが、レース全体のターニングポイントとなり、極めて高い技量を持ってしても避けられない最速バトルの結末を象徴する見逃せないシーンのひとつでもある。
日本最速のレース『スーパーフォーミュラ』では、今季もそうした印象的なシーンが多数発生。特に第1戦の富士スピードウェイでは、かつてF1も開催された世界有数の長い直線と、開幕戦ゆえ不確定要素が多い状況により、危機一髪のシーンが生まれた。
時速300キロ超に達するロングストレートで“マシンが浮き上がる”接触
第1戦はスタートから大きな波乱が起きた。
2周目の1コーナーで、7番手を走る坪井翔(P. MU/CERUMO・INGING)のマシンに、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が止まりきれず、乗り上げるように接触。そのまま坪井はリタイアとなった。この接触について、牧野に5秒のペナルティストップが科された。
一見すると「牧野選手がブレーキ我慢しすぎ!」と思うかもしれないが、裏には開幕戦ならではの事情もあったのだ。
今季は、マシンが『SF19』から『SF23』に替わり、特に空力性能が大きく変化している。開幕戦では、チームはマシンのセッティングを決めるために少しでも時間を使いたい、ドライバーは少しでも走ってフィーリングを掴みたいという思惑のなか、雨のためなんとフリー走行が中止に。予選、決勝がぶっつけ本番になってしまったのだ。
クラッシュ後の両選手のコメントでは「想像以上にスリップストリームが効いて、特に牧野選手のマシンはストレートが速く、ホームストレートの速度差が大きかった」とのこと。牧野は自らの非を認めていたが、マシンの限界性能を掴みきれない状態でのレースだったことは想像できる。開幕戦の全体のシチュエーションを見ると不運なクラッシュだったのかもしれない。
ジャン・アレジの息子が超高速で“危機一髪” 接近戦が大クラッシュに
さらに第1戦ではもうひとつ印象的なクラッシュがあった。
36周目、9番手を争う福住仁嶺(ThreeBond Racing)とジュリアーノ・アレジ(VANTELIN TEAM TOM’S)の接触だ。
ホームストレートでジュリアーノが福住の後方につくと、福住がイン側をブロック。ジュリアーノはアウト側へ行くしかないだろうと思われた。
しかし、そのまま狭いスペースしかないイン側へと強引に顔を出し、その結果、福住のマシンに当たってしまった。その後、ジュリアーノには第2戦の4グリッド降格ペナルティが科された。どちらのチームもポイントが見えていただけに、残念なクラッシュとなってしまった。
(ABEMA『スーパーフォーミュラ2023』/(C)JRP)