勝利はもう目の前、ただ時間がない。残り2秒とぎりぎりで飛び出した一手に、周囲の人々も仰天だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Cリーグ第1試合、チーム広瀬とチーム菅井の対戦が5月27日に放送された。スコア2-2のタイで迎えた第5局は、チーム広瀬の石井健太郎六段(31)がチーム菅井・船江恒平六段(36)に競り勝ったが、最終盤は残りわずかな時間を刻むチェスクロックの音に追われたのか、石井六段が大慌て。なんとかひねり出した一手に、観戦していた棋士たちから「えー!?「何これ!」と驚きの声が続出した。
勝った方が試合の流れを引き寄せるタイスコアからの第5局。先手の船江六段が矢倉、後手の石井六段が雁木と相居飛車の将棋になったが、序盤から目まぐるしい動きになり、解説を務めていた阿部光瑠七段(28)も「こんな激しい展開、指したくないです(苦笑)。詰みまで研究していないと指せないです」と、対局者の心情を代弁していた。
5筋に飛車を周り、居玉だった相手の玉頭を攻めに出た船江六段に対し、石井六段はうまく大駒同士の交換に導き、徐々に優位を築き始めた。中盤から終盤にかけては、玉頭と相手陣の最深部を、2枚の飛車を使いながら同時にプレッシャーをかける攻めが成功。一気に船江玉を追い込んだ。
形勢は石井六段の勝勢にはなったが、別の敵が迫っていた。時間だ。ピッ、ピッと残り時間が少ないことを告げるチェスクロックの音に急かされたか、石井六段は即詰みがある場面でも読み切ることができず、残りわずか2秒というところで自玉を守る△5四銀打という手を選択。これに控室で見ていたチームメイトの近藤誠也七段(26)が「えー!?」と驚くと、相手のリーダー菅井竜也八段(31)も「えー!えー!えー!何これ!」と、ちょっとしたパニックになっていた。思わず頭を抱えた石井六段ではあったが、形勢逆転とまではいかず、落ち着きを取り戻してからはきれいに即詰みに討ち取っていた。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)