5月31日、将棋の藤井聡太六冠が渡辺明名人に挑戦する名人戦七番勝負の第5局は、藤井六冠が56手目を封じて1日目を終えた。ここまでは藤井六冠が3勝1敗とリードしており、勝てば谷川浩司十七世名人の持つ21歳2カ月という最年少記録を更新しての名人獲得とともに、羽生善治九段以来史上2人目の「七冠」を達成する。
そんな中、『ABEMA NEWS』では羽生九段に単独インタビュー。52歳の今もトップであり続ける理由、棋士生活のこれまでとこれからについて話を聞いた。
■羽生善治、52歳、プロ棋士
Q.1人の棋士として20代の頃と何か変わったなと思うことは?
気が付いたら長い年数が経っていた感覚。自分自身ではそんなに変わったつもりはないが、傍から見たら変わった部分は当然あるかなと。
Q.七冠を取った時と今、どちらの羽生さんが強い?
知識だけいえば、今のほうが圧倒的にあるが、勝負は別。ここが将棋の面白いところで、経験値や知識は増え続けるが、やってみないとわからない。
■トップ棋士であり続ける理由
Q.トップ棋士であり続けられていることはご自身でどう思う?
例えば、70代後半まで現役でいられた加藤一二三先生を見ていると、技術的なこともそうだが、テンションが保てるということが、棋士の場合は一番大事。他の世界も同じだと思うが、ある程度年齢が上がってくると、枯淡の境地というか。闘争心とかテンションというよりも、だんだん静かな雰囲気になってくる。加藤先生の場合はそれがまったくなかったので、他の人と圧倒的に違う。
Q.長い期間トップ棋士であり続ける苦労は?
マラソンを走っているようなものなので、ある種のペース配分というか、あまり一時期に無理し過ぎるのも良くない。逆に減速していても長く続かない。ある一定のスピードを保って前に向かい続けていくことが大事。
Q.一定のスピードというのは、将棋に向かう熱量?
熱量的なものもあるし、モチベーションのようなものもあるし、体力的なものもある。様々な要素が含まれている。
Q.「減速する」というのは具体的には?
朝起きてしんどいと思う時がある。アスリートの人で4年に一度のオリンピックで全てが決まるとなったら、そんなこと言ってられない。しんどかろうがやる気がなかろうが頑張らなければいけないが、何十年の単位でやっていくことになると、「そういう時もある」という割り切り方をしなければいけない。如何ともしがたいということもあるわけで。それはそういうものだと受け止めて、続けていくということになる。
■「羽生善治」とは
Q.羽生さん自身、どうやったら羽生さんのようになれると思う?
いろいろな幸運やめぐりあわせが重なって棋士になれたと思う。めぐりあわせが良かったということは、実はいつも感じている。それが良くなければ将棋にも出会わなかったし、棋士にもなっていないと思うので。いつも強く思っている。
Q.一番大きな幸運は?
(小学校)1年生の時に将棋のルールを覚えた。住んでいた場所に将棋クラブがあったのは非常に幸運だった。それがなければ本格的に将棋を続けることはなかったと思うので。たまたまめぐりあわせに恵まれていた。
Q.棋士人生で一番の幸運は?
たくさんの対局をしていく中で、薄氷を踏む思いは何十回もしている。「なんでこの将棋負けた」というひどいミスもある(笑)。
■プロ棋士ではない人生
Q.プロ棋士になっていなかった人生なら、何をしていた?
そういうことを考えてみたかった、というのが一番の実感。11歳の時に弟子入りして棋士を目指している。高校生とか大学生くらいの時に、進学するのか就職するのか、どういう道に行くのか、いろいろ思い悩むが、そういう場面状況が一回もなかった。そういうのは経験したかった。
Q.「人生を将棋に捧げよう」と思ったことは?
(将棋の世界に)入るのが10代後半とか20代前半だったら、いろいろなことを考えて「この道に進むんだ」という決意をもって進んだと思うが、小学生なので何も考えてない(笑)。よくわからないまま入ったというのが実情。
■棋士生活の現在地
Q.棋士生活を100m走に例えるなら、今は何m?
ゴールは見ない、ということが大切だと思っていて。加藤先生の話が出たが、同じ年数までやろうとするとあと25年かかる。「あと25年全力疾走しろ」っていうといきなりやる気がなくなるので(笑)。先のことは考えずに、目の前の一年一年をしっかりやっていく。
Q.これまでの棋士生活に自分で点数をつけるなら何点?
終わってから評価が決まるものかなと。
Q.棋士としての今後の目標は?
具体的ななにかというよりも、一局一局を大切に指していきたいという気持ちは最近のほうが強い。若い時だと時間もチャンスも無限にあって、そこでどうしていくかという感覚でいられた。だんだんそれが、「これは無限じゃなくて、限られた回数の、限られたチャンスの中でやっていくんだ」ということがリアリティをもって受け止められる。そこが一番変わってきたところでもあるし、そういう機会を大切にしていきたい。
Q.いつか引退する時のことは考える?
いろいろな大先輩の棋士の人たちを見てきて、いろいろな引退の仕方というか、そういうのがあるんだとは思っている。
(『ABEMA NEWS』より)