所狭しと積み上げられ、いまにも崩れそうな本棚。いや、実際に崩れている。所有者である東京工業大学・西田亮介准教授と、「本は読むべき」「読まねばならない」という読書規範について考える。
「本を読まないことは恥ずかしい」という謎の重圧。読書の量や質をアピールする「読書マウント」という言葉もあるそうだ。「読まねば」とは思うのだが、実際は積読本ばかりが増えていく。
そんな中、話題を集めているのが、「flier(フライヤー)」が始めた本の“要約サービス”で、累計会員数は105万人。通常、読み終えるのに4~6時間かかるビジネス本が10分程度で読めるとあって、タイムパフォーマンスの良さから、リスキリングを促進するツールの一つとしても注目されている。
また、「速読」のように訓練を必要とせず、誰でも文章を読むスピードが上がる方法も実用化されようとしている。大日本印刷が開発した技術をもとにした「読書アシスト」だ。
「『文頭を階段状にする』『文のベースラインを少しずつ文節ごとに下げていく』などの工夫をすることで、目線が自然と文節単位に誘導されていき、読み戻りをしないでスムーズに文字が読めるようになる」(BIPROGY 下村剛士氏)
日本人の平均的な読書のスピードは、1分間に400~600文字程度と言われている。この「読書アシスト」を利用すると1分間に約1000文字の速さで読むことができるという。
「インプットされる情報が約2倍になるので、単純に言うと生産性が2倍になる。知識量やスキル向上の機会が増えることは日本や社会の生産性につながるのではないかと期待している」
このようなサービスからは「何とかして本を読みたい」という人々の思いの強さを感じさせる。
読みたいけど読めない。こうした悩みに、本や論文と向き合う毎日を送っている西田氏はどう答えるのか。
「本が読めない?読みましょう。息をするように本を読もう、勉強しよう。アベヒルではいつもこれを言ってきたはずです」
想像通りの厳しい回答。しかし、西田氏も読んだ本の内容を全部覚えているわけではなく、積読の山が存在することも明かした。
「『本を買ったら最初から最後まで完読しなければいけない』という人もいるだろうが、いい加減に作られている本もあるし、これまで単著だけでも10何冊書いてきたぼくだって振り返ってみればちょっといい加減に書いている本もないわけではない。なので、本に書いてあることをいちいち真に受ける必要もないし、ニーズ次第で話半分にパラパラと読むだけでも十分だ。ぼくも流行りのビジネス書なんかはそんな感じで流し読みしているものがたくさんある」
では、議論の場などで「読んでいない本」が話題になったらどうするのだろうか。
「もちろんごまかすんですよ(笑)。長年の蓄積で、教科書でなんとなく内容を知っていたり、耳学問をしている知識もたくさんある。相場観ができてくるので『だいたいこんな感じであるはずだ』と。読んでいない本はたくさんあるがそれをいい感じに、さも読んでいるように取り繕う技術が巧みになってくるんです。でも、あとで間違えていることに気づいていたら訂正しましょう」
そもそも、なぜ「本は読むべきだ」「読まねばならない」という読書規範に苦しめられるのか―。西田氏は『勉強しろと言われる焦り』『勉強のイメージが貧困』『本を読むのが苦痛というイメージ』の3点を挙げる。
「この3つは、どれも学校でやりすぎなのかもしれない。勉強といえば、学校での暗記などのイメージが頭に残っているはずだが、大人の勉強はそれにとらわれる必要はまったくありません。三日坊主でもいいんです」
西田氏は「勉強が苦手な人は“インセンティブ”をうまく設計できていないことに問題がある」と指摘する。
「ぼくはこうしてコメンテーターの仕事もしているので、普通の研究者よりも幅が広い知識を勉強することに“インセンティブ”がある。そもそも研究者という仕事もその分野について理解を深めるという意味では、勉強することにとてもインセンティブがあるんです。なので、勉強することや本を読むことはまったく苦痛ではありません。ちゃんと勉強しただけリターンがあるからです。
皆さんが勉強するときには『勉強しなければならない』という漠然としたイメージだけが先にあって、『勉強しなければいけないから勉強しよう』となっていないか振り返ってみてほしい。それを通じて何が得られるか、何を学べばリターンがあるのか、他人と差別化できるのかというインセンティブを考えてから勉強を始めてもよいかもしれません」
本との向き合い方については、もっと力を抜いていいそうだ。
「本の内容を全部覚えるなんてことは、ぼくも無理。ほとんど覚えていないので、同じ本を2~3回買うこともある。強迫観念で読むのは疲れてしまう。大事なことは本を読むことではなく勉強することであり、新しい知識を習得したり何かが出来るようになったりすることだ。本を読むというのはあくまでもその手段に過ぎません」
ちなみに「積読」は、本を購入することで出版社と著者が支えられるため、文化に貢献しているとも考えられるという。そう思うと少しは気が楽になるのかもしれない。(『ABEMAヒルズ』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側