指し手にびっくり、裏声にもびっくりの“両王手”だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Cリーグ第3試合、チーム天彦とチーム広瀬の対戦が6月10日に放送された。第7局はチーム天彦・戸辺誠七段(36)と、チーム広瀬・近藤誠也七段(26)が大激戦。最終盤までどちらが勝つかわからない叩き合いになったが、予想外の一手に解説を務めていた井出隼平五段(32)が「うっひゃ~」と裏声で叫び、周囲を別の意味で驚かせることとなった。
井出五段は振り飛車党の棋士で、若手棋戦の加古川青流戦で優勝経験がある。大盤解説では自虐も含めたユーモラスなコメントが特徴的で、難解な局面については「私にはわかりません」とはっきり言ってしまうあたりも、ファンの好感を呼んでいる。今回の試合でも随所に対局している棋士の棋風だけでなく人柄も伝え、かつ冷静な解説と感情的な部分を織り交ぜながらファンを楽しませていた。
この試合一番と言えるほど、井出五段が目立ったのが第7局だ。先手の近藤七段が居飛車、後手の戸辺七段が向かい飛車を選択して対抗形で進んだ将棋は、両者ともがっちり囲い合ってからのぶつかり合いに。近藤七段がじわじわとポイントを稼いで戸辺七段の穴熊を攻略しかけたが、最終盤にドラマが待っていた。際どいながらも近藤七段が自玉をぎりぎりで逃し戸辺玉を寄せ切ろうとしたところ、▲7二金と打ち込んだ手が裏目に出て、今度玉に即詰みが発生。この手を見た瞬間、井出五段が「うっひょ~行った!」と裏声で叫んだ。「勇者だ!でも…え?わからない」。井出五段も、▲7二金を見た瞬間は近藤七段の勝負手が決まったように感じたものの、時間が経つごとに形勢が逆転してしまったことを理解し始め、後手・戸辺七段の勝勢だと説明し始めた。結果、戸辺七段が176手で勝利し、激戦にけりをつけた。
白熱の最終盤もさることながら、まさかの一手が出た瞬間の井出五段のリアクションについては、視聴者からも「やっちまった」「あら~」といった反応が続出。聞き手を務めていた小高佐季子女流初段(20)も、あまりの裏声、かつ絶叫ぶりに驚いたのか、しばらく言葉が出ていなかった。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)