ハーバード大の人種優遇「違憲」に大統領も企業も反発 “平等と能力主義”どこまでバランスとる?
【映像】正反対! バイデン大統領とトランプ前大統領のコメント

 アメリカで1960年代以降、差別是正などを目的に名門ハーバード大学をはじめ多くの大学がとっている、入試選考で黒人などの少数派を優遇する措置「アファーマティブ・アクション」。これが白人やアジア系への逆差別だとし、保守派が訴え。6月29日、連邦最高裁は「人種ではなく個人として評価されるべき」とし、優遇措置は法の下の平等を定めた憲法に違反するという判断を下した。

【映像】正反対! バイデン大統領とトランプ前大統領のコメント

 バイデン大統領は「私は裁判所の判断に強く、強く反対する」と述べ、大学入試での優遇は資格のない学生を優先する措置ではないと強調。さらにはマイクロソフトやセールスフォースなど複数の企業が判決に反発の声をあげている。一方、共和党のトランプ前大統領は大歓迎で、「すべて実力主義に戻る。それがあるべき姿だ」という声明を出した。

 差別是正に多様性、男女平等が進む中で下されたアメリカでの違憲判決。『ABEMA Prime』では、“平等と公平のバランス”について考えた。

■アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの実情

   桐蔭横浜大学法学部准教授の茂木洋平氏は「アメリカ社会には激しい人種差別があり、地位の平等を求めていくためにアファーマティブ・アクションが始まった、というのが1つの前提だ。多様な人たちが併存している状態で、社会経済的に低い地位におとしめられた人々が強い不満を抱き、大学の入学枠や公共事業の受注などでマイノリティを優先しないと国が分断してしまう状況があった。これは差別の是正よりも、分断防止の観点から捉えていく必要がある」と指摘。

 原告側は、同じ学力指数でも、アフリカ系やヒスパニックの入学率のほうがはるかに高く、白人やアジア系の機会が奪われているという資料を出して「行き過ぎではないか」と主張している。茂木氏は「大きな目的があるときには、能力主義を曲げなければいけない場面が出てくる」と話す。

「実際、他の裁判の資料でも、ヒスパニックや黒人の学力は他の人種より低い状態だというものが出ている。さらに差別もあり、『自分が勉強を頑張ったとしても、それに見合っただけのリターンが得られない』『会社で上の地位に就けない』と感じて、さらに入学者が減り学力が下がってしまう。強調しておきたいのは、人種的な不満がたまってくるとアメリカは国家として成り立たない、ということだ」

 一方で、制度アナリストの宇佐美典也氏は「アファーマティブ・アクションの度合いがどう算定されているかという根拠がある程度説明されていれば納得感はあると思う」との考えを述べる。

「例えば、学力指数7で白人が4.8%、アフリカ系が41.1%受かっているが、7に入るのは白人の中の上位30%で、アフリカ系は上位5%だとすれば、それ(優遇)はしょうがないとなると思う。その仕切りの土台がアメリカ社会としてわからなくなってきているのでは。アファーマティブ・アクション自体が駄目だとざっくり切ってしまうのは強い判決だと感じる」

 これに茂木氏は「逆にある人種に対してこれだけ優遇しているということが全て出ると、さらなる批判を招くと思う」とした上で、「アメリカはいろんな地域にいろんな人種が集住しているので、その地域を基準にするとか、人種がなるべく前面に出ないようにオブラートに包んでやっていく。今回違憲判決が出たが、手を変え品を変え、アファーマティブ・アクションは今後も継続していくものだと思っている」と述べた。

 9人で構成される最高裁判事のうち、保守派が6人、リベラル派が3人。トランプ政権時代に保守派が優勢となったことが今回の裁判を左右したのでは、という声もある。「確かに保守的な判決が続いている。とはいえ、裁判所は自分たちの判決が社会の中で受容されるかどうかをすごく気にするため、社会が受け入れないと判断すれば、考え方が中間的なところに移動することもあるだろう。保守派の裁判官もある程度は柔軟に考え方を変えていく場面が出てくると思う」との見方を示した。

■アファーマティブ・アクションのゴールとは?

 日本でも、企業の女性管理職や政治の女性参画の割合、理系大学入試の「女子枠」、LGBTQ関連など、アファーマティブ・アクションが一部でとられている。この先にはどんなゴールがあり、いつまでやるべきなのか。

 実業家のハヤカワ五味氏は、「奥さんに家事を全て任せているからその働き方はできているんだろう、というような偏った人ばかりが管理職にいると、次の世代も同じ働き方をしないと評価されない。女性の働き方についてそもそも男性にはわからないことも多少ある中で、働き方や考え方の多様性を取り入れて、当事者が1人でもいて『思い描いているほど働くことに妊娠、出産は影響ないよね』『こういう仕組みがあるだけで働きやすいよね』と言ってくれるだけで、次の世代は助かると思う」との考えを口にした。

 茂木氏は「私の妻は機械メーカーに勤めているが、3000人以上いる会社で、子育てしながら管理職をやっている女性は3、4人ぐらいしかいないと言っていた。今は私が子どもを保育園に通わせているが、そういう動き方は執行部の人たちはなかなか理解できないだろう。ただ、これからは人手不足の問題もあり、女性に大いに活躍してもらわないと企業も儲けていくことができない。そういった経済的な環境によって企業の雇用スタイルはどんどん変わっていくので、日本社会は男女平等に向かって進んでいると思う」との見方を示した。

 宇佐美氏は「その国において、どんな人達がどれくらい活躍するかが見えていないと、議論は収束しないと思った。例えば軍隊が大きいアメリカでは、黒人が活躍している。こういう人たちが国を守っていて、彼らの環境を引き上げなきゃいけない、という理屈は通るのではないだろうか。結局こういう議論はアメリカらしさ、日本らしさとは何なのだろうというところにたどり着くと思う」と投げかけた。

(『ABEMA Prime』より)

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