覇者の風格を漂わせた天才棋士が、優勝奪還へ向けて好発進だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Eリーグ第2試合、チーム藤井とチーム千田の対戦が7月15日に放送された。個人戦だった第1回、2回大会を含め、昨年の第5回大会で始めて優勝を逃した藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)は第2、5、8局に登場し、貫禄の3連勝。チーム千田の3人全てを倒して、チームを初戦勝利に導いた。試合後には「ホッとしました」と安堵の表情を浮かべたが、盤上での落ち着きと厳しさは、さすが七冠保持者だった。
昨期は大先輩の棋士2人をドラフト指名しながら、よもやの予選敗退。今期は幼いころに指導対局を受けたことがある澤田真吾七段(31)、同じ杉本昌隆八段(54)門下の兄弟子・齊藤裕也四段(26)を指名して、東海トリオを結成、2大会ぶりの本戦出場・優勝を目指していた。
第1局で齊藤四段がチーム千田の新鋭・藤本渚四段(17)に敗れると、第2局はチーム千田からリーダー千田翔太七段(29)が登場。藤井竜王・名人にとっては公式戦で勝ち越してはいるものの、朝日杯将棋オープン戦の準決勝、順位戦B級1組の終盤・11回戦など、要所で黒星を喫している難敵だった。千田七段の先手番から角換わりで始まると、序盤から中盤にかけては若干千田七段のペースに。それでも少々の不利ならば勝負術で何度もひっくり返してきた藤井竜王・名人がプレッシャーを与え続けたところで、千田七段側にミス。これを逃さず形勢をひっくり返すと、その後は再逆転を許さずそのまま鮮やかに寄せ切った。
続く出番は第5局。七冠王に10代の若手が挑戦するという注目のカードが実現した。チムスコアでは1-3と押し込まれた正念場。負けてもともととぶつかってくるだろう17歳の藤本四段については、情報がほとんどない藤井竜王・名人だったが、相手が得意の雁木に構える中、じっくりと受けて立つような進行を選んだ。大きなターニングポイントはどこか見つけるのが難しい一局だったが、気がつけば藤井竜王・名人の駒が自然に伸びるという、まさに「藤井曲線」な展開に。117手で勝利すると、敗れた藤本四段からは「全く勝負にならない。自分が感覚で指しているところを、藤井先生は圧倒的な読みで指している感じ」と、脱帽のコメントが続いた。
盤石の強さは、勝利に王手をかけた一局でも揺るがない。第8局は、ABEMAトーナメントで大活躍の振り飛車党・西田拓也五段(31)が相手。大方の予想どおり、先手の西田五段が三間飛車、藤井竜王・名人が居飛車の対抗形になると、西田五段にチャンスが訪れるシーンもあったが、最終的には藤井竜王・名人の端攻めが圧巻。本人は「指している感覚としては、ずっと際どかった」と振り返ったが、82手の短手数で決着をつけた。
チームは澤田七段も2勝を挙げて、スコア5-3で勝利。試合後は「なんとか勝つことができてホッとしています。(個人3連勝は)運がよかったです」と微笑むと、藤本四段との対局には「年下の相手と指すには非常に久しぶりだったので、すごく指していて新鮮でした」と、刺激も受けていた。
現在、藤井聡太竜王・名人は、公式戦では史上初となる八冠を目指し、王位と棋聖のタイトル防衛戦を戦い、さらに王座のタイトル挑戦権を狙っている。多忙なスケジュールの中、ABEMAトーナメントはデビュー間もないころから参加してきた、馴染みある超早指し棋戦でもある。2年ぶり5度目の優勝へ。強さが際立つ3連勝スタートとなった。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)