日本では長年、若者の政治への参加意識の低さが問題となっている。次世代を担う子どもたちの政治に関するリテラシーを育む「主権者教育」を、ユニークな方法で行う一人の先生に話を聞いた。
【映像】小学生への難問「橋をつくるべきか」「祭りをするべきか」
選挙権年齢が20歳から18歳以上に引き下げられてから8年。日本の各種選挙における投票率は昭和から低下傾向が続き、2年前に行われた衆議院選挙では、20代の投票率が36%と低い水準になっている。
文部科学省は、小・中・高等学校を通じて「主権者教育」の充実を推進するようになった。
その「主権者教育」とはどういうものなのか。小学生向けに「主権者教育」を行い、反響を呼んでいる、弘前大学教育学部の蒔田純准教授に話を聞いた。
「“シティズンシップ教育”といって市民性などと訳されるが、社会の中で権利や義務というのを意識しながら、どうやって社会という組織の中で、責任感を持ちながら生きていくべきか。そういう社会との関わりを教える教育」(蒔田准教授、以下同)
なかなか、小学生には難しい教育のように感じるが、蒔田さんが編み出した授業方法は「アニメ」。
「(授業で)使っているのはタイトルが『ポリポリ村のみんしゅしゅぎ』というもの。(内容は)“ポリポリ村”でお金の使い方を巡って、『橋を作るべきか』『お祭りをやるべきか』で意見が分かれる。それで村長選挙で決めることになり、2人候補者が出る」
その後、「絶対に橋が必要」と訴える候補者と、「祭りをやめてまでつくる必要はない」と反対する候補者が争う村長選が行われる展開になり、動画を一時停止させる。そこで生徒たちにはどちらの候補者がいいか議論してもらい、自分の考えで一票を投じてもらう。
蒔田さんは、その投票結果に応じた2通りのアニメの続きを用意し、選挙結果で村がどう変わるのかを見せるという。
「それによって子どもたちは、自分の一票が村の将来につながっている、自分の思いと社会全体がつながっているんだということが学べる」
実際、授業が終わった後の生徒たちからのアンケートで選挙に対する意識の変化を感じるという。
「橋を推している候補者を『こういう理由でこの候補者が良いと思いました』と、政策で選んでいる。子どもたちなりに“なぜ橋を推進すべきなのか”“お祭りを推進すべきなのか”。ちゃんと子どもたちなりに政策・論点によって決めているなってというのがアンケートから分かるので、非常に頼もしいと感じている」
ただ出前授業の打診は、時として「外部の人に政治の授業をしてもらうのは難しい」と断られてしまうこともあるという。
授業を始めたきっかけも、蒔田さんが衆院議員の政策担当秘書時代、インターンに来た大学生から聞いたある言葉だった。
「大学の友達に『自分が政治に関心がある』『議員事務所で働いてる』ということを知られると、ちょっとやばい奴、危ない奴だと思われる可能性があると。ショックであると同時に、ちょっとわかる気もした。政治学科の学生でも、大学で政治のことを気軽に友達と話せる環境はあまりなかった。若者や子どもが政治について気軽に話し合えるような環境作りが、まず必要なんじゃないかという問題意識をもって、それが今の出前授業につながってる」
現在、蒔田さんは全国の小学校などへ出前授業をしながら、台湾やインド、パプアニューギニアなど9カ国の学校にもリモートで「主権者教育」の授業を行っているという。
「相手を説得したり、妥協点を見つけたりと、最終的に一つの結論にもっていくことが民主的な意思決定の仕方。だけど、これは難しくて、一朝一夕には身につかないので、もっと幼い小学生の段階からそういう訓練をしておくべきなんだなと。そういうことで私が一助になりたいなと」
この取り組み受けて、社会学者で東京工業大学・准教授の西田亮介氏は「日本は主権者教育が不足している」とし、持論を展開した。
「具体的な政治の話を学校でしたことがない人も多いのではないか。学校の公民教育や社会科教育の場面で、例えば具体的な政党の名前やその政党が歴史的にどんなのことしてきたのか、何を主張しているのかを学ぶ機会はほとんどないはず。その後、自分で勉強するなどという人もそれほど多くないはず。そうであるにもかかわらず、投票年齢になった時に『投票してください』と言われるのはとても難しいことだ」
では、教育していく上で重要なポイントはあるのか。
「3つある。まず1つが公職選挙法という法律で教員の地位利用の選挙活動が禁止されていることだ。例えば『〇〇党に投票してください』というのは、公職選挙法違反になるので注意しないといけない。そのため、生徒たちが自由に議論できる場を作ってあげることが重要だ。
2つ目は、タブーを作ると情報箇条の時代だけにかえって若者や学生らが『なぜこのテーマは学校ではやらないのだろう』と変な勘繰りが生じることもあるので、基本的に自由に議論できる環境を作ることが大事。
3つ目は、選挙研究でも知られていることで投票した経験が大事ということ。投票に行ってる人は過去に投票したことがあるということ。蒔田准教授の取り組みのように、幼い頃から政治について議論して親しみをもち、敷居を下げていく。そして投票所に足を運んでいくという一連の流れを教育現場でデザインしていくことが重要に思える」
学校で「現実の政治」について教えるときに大事なことは?
「最終的には学生本人の主体的な判断ができる環境を作ることが大事。政治や政策について良い悪いの好みもあると思うが、最終的にはどちらの立場も考えられる場だ。しかし、学校ではどちらの立場をとっても反対の立場の保護者や政治家などから『こんなこと学校でやっていいのか』と電話が入ることもある。そうすると学校も教育委員会も萎縮してしまうので、そうならなくても済むような仕組みづくりが必要」
その仕組みというのは?
「教員の地位利用などは認められないが、学校現場の裁量があって、それ以外については自由に政治教育、主権者教育ができるということを総務省や文化省を中心に改めて確認して、それを社会的に周知するなどして学校や教育委員会の裁量を実質的に守る仕組みが大事ではないか」
(『ABEMAヒルズ』より)
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