タイトル31期の前名人に新A級棋士がいてもなお、超早指し戦団体戦における予選の壁は分厚かった。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Eリーグ第3試合、チーム藤井とチーム渡辺の対戦が7月22日に放送された。チーム渡辺は第1試合でチーム千田にフルセットの末に敗れ、予選通過にはチーム藤井戦での勝利が必要だったが、結果はスコア0-5というストレート負け。優勝候補の一角が予選で姿を消すこととなった。
最後まで波に乗り切れず、今年の大会が終わってしまった。タイトル31期、竜王と棋王で永世称号の有資格者である渡辺明九段(39)を筆頭に、今期から順位戦A級に参戦した佐々木勇気八段(28)、2022年4月に四段昇段し今後が期待される岡部怜央四段(24)という3人組は、強豪ひしめく予選Eリーグに入っても予選突破を有力視され、さらには優勝候補に挙げるファンも少なくなかった。ところがチーム千田戦を落としたことも影響してか、チーム藤井戦では最初から最後まで勢いづくポイントを見つけられなかった。
第1局は、岡部四段が澤田真吾七段(31)の独特な指し回しに翻弄される形で敗戦。スタートダッシュは叶わなかった。すると第2局、流れを変えようと出場した渡辺九段が、こちらもデビューから1年に満たない若手・齊藤裕也四段(26)に、ぎりぎりの最終盤で勝ち切ることができず、よもやの黒星を喫した。第3局は相手のリーダー藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、21)が出てきたところ、佐々木八段が公式戦で試したかったという作戦をぶつけたものの「もうちょっと研究して臨まないといけなかった」と反省するように、藤井竜王・名人に冷静に対処されて投了。あっという間のチーム3連敗で、窮地に追い込まれた。
チーム藤井戦に勝ちさえすれば、1勝1敗ながら得失点差でチーム千田を上回り予選突破できるチーム渡辺だが、どうにも悪い流れが止められない。第4局、岡部四段が澤田七段と先後を入れ替えての再戦になると、相掛かりから岡部四段が攻めに出るものの、むしろ攻めさせて受けるという澤田七段の指し回しにはまり、ここでも敗戦。白星がないままカド番に追い込まれた。第5局、佐々木八段と藤井竜王・名人による再戦になると、佐々木八段は先手番から角換わりを志向。両者ともにも研究が深い戦型ということもあり中盤、終盤とスピード感もあり、かつ拮抗した戦いが続いたが、わずかなチャンスを見逃さない藤井竜王・名人の切れ味の前に、佐々木八段は持ちこたえることができず122手で投了。チームのストレート負けが決まった。
本戦の常連でもあった渡辺九段は、この試合の出番が1局のみ。チーム千田戦と合わせて、個人1勝3敗と振るわず「リーダーでありながら後輩2人を引っ張ることができなかった。力不足も責任も感じて、自分自身に残念なところがありますね」と振り返ると、佐々木八段は「優勝候補だと思っていたので。本当はもっと強いチームなんですよ。みんなの調子が合わなくて、敗退になってしまいました」と、少し笑みすら浮かべて敗退を悔やんだ。また岡部四段も「もうちょっと長くこのチームで戦いたかった。自分の実力の足りない部分が、結構明確になった」と今後への課題を口にした。
控室での雰囲気も抜群で、公私ともに仲がいい3人組での団体戦。今後も様々な対局や動画でファンを楽しませてくれるはずのチームだっただけに、早すぎる結末を全員が悔やんでいた。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)