今シーズンから声出し応援が解禁になったプロ野球。球場を訪れるファンの数もコロナ前に迫る勢いで回復し盛り上がりを見せる中、一部ファンによる”ある応援”が波紋を呼んでいる。
先月行われたセパ交流戦の阪神対ソフトバンクの試合。阪神の1点リードで迎えた9回は、ソフトバンクの攻撃。2アウト1、2塁、2ストライク2ボール...この状況に阪神側のスタンドからは「あと一球!あと一球!」の大声援。しかし一打をきっかけに試合はソフトバンクの逆転勝利。阪神は目の前まで迫った勝利を逃してしまった。
すると試合後、このコールに対する声がSNSを中心に噴出。「味方にプレッシャーだし、応援になってない」「相手チームへのリスペクトに欠けてる」「下品な悪しき風習」等々、批判的なコメントが溢れた。
だが阪神ファンは「あと1球コールがいけないなんて意識はなかった」「あと一球コールぐらい、やいや言うな」と腑に落ちない様子。この“あと一球”コール、阪神ファンの間では、なんと40年以上前から行われていたのだ。
■“あと一球”コールはなぜ「下品」なのか
この“あと一球”コール、応援される側はどう感じるのか。サイドスローの名手として阪神で活躍し、現在は新橋で居酒屋『TIGER STADIUM』を経営する川尻哲郎氏いわく「そんなに気にならない。コールに反応してるようでは抑えられない」とバッサリ。また「見に来てくれる人が一体となってチームを応援すると。ファンの人が盛り上がってくれればそれはいいことだ」と好意的に受け止めていた。
過去に阪神タイガースの私設応援団に所属していたプロレスラーの長谷川一孝氏は、「今はみんな細かい。野球は戦いだ。節度ある応援はもちろん大切で、選手の家族を侮辱するなどはいけないが、これらは全部応援合戦だ」と力説。相手チームへの威嚇や侮辱ではないかという意見については、「結果的には威嚇になるかもしれないが、侮辱はしていない」と回答した。
さらに、中学生頃まで何度も甲子園球場に足を運んだという元キャスターの堀潤氏は、「ガラは悪いけど、やさしくしてくれる」と阪神ファンとの思い出を披露。「グラウンドに向けてはワーッという感じかもしれないけど、球場に来ている側からしたら楽しい雰囲気でみんな仲間」、そのうえで、「何をもって下品とするのか、品位とするのか」と疑問を呈した。
そこで「最近スポーツマンシップをすごく求めるようになってきた」と切り出したのはスポーツライターの広尾晃氏。「スポーツは、観る・やる・支えるの3つがあるので選手だけでなく観る側にもマナーを求めてきているのではないか」と推察した。
そして「応援というのは元々、攻撃の時にするもの」と前置き。「それはマナーだ。甲子園でもそうだし、プロ野球でも攻めている時だけ声をあげる。守っている時は、例えばピッチャーが苦しくなった時に拍手でちょっと励ましてあげるぐらいのこと。”あと一球”はその意味ですごく異質」と述べ、”あと一球”コールは応援団のリードでやっているものではなく、自然発生的に出ているものだと説明した。
また、“あと一球”はプレッシャーになるため嫌がっている選手もいるのだという。「選手によって受け止め方が違う。確かに背中を押される人もいるが心の中で“分かっとるわい”という人もいる」、そして“あと一球”からの逆転負けは不名誉なため、「だからよそが真似しないのでは」と私見を述べた。
■過激な応援は過去のものに
「あと一球」コール以外にも、相手ピッチャーが交代した時に『蛍の光』を歌ったり、相手の球団の歌を侮辱的な替え歌にするなどの行為もみられる。
広尾氏は「今の応援団は球団との話し合いを経てやっているため、侮辱的なアクションは絶対やってはいけない。これも自然発生的にできている。応援団が主導してやることは絶対にない」と断言。さらに「替え歌などは昔はこれどころではなかった。相手のピッチャーが交代したら“誰が投げても一緒”と言ったり、南海近鉄戦だと“近鉄電車ではよ帰れ”」と大阪らしいやり取りも明かした。
長谷川氏も「試合後のグラウンドによく自転車で入ったりした。地方球場なので警備員が緩い。それでちょっと貸してと言って借りて、勝っても負けても行く。プレー中ではない」と過激な応援エピソードを披露。東京ドームでグラウンドに冷蔵庫を投げ入れるファンなどもいて、「4コマ漫画になった」と懐かしんだ。そして「その頃に比べるとだいぶましになった。昔は、お客が来ないので応援する人の粒が立っていた」と述べた。
マナーが良くなったことで、ファンの裾野は広がっているという広尾氏。ライトなファンが増えてきているということになるが、ライトな人たちは応援を楽しめるのだろうか。
「ライトな人にもいろいろある。応援の空気を感じたいという人が結構たくさんいる。自分のチームがちょっと良い時だけ応援して、あとはおしゃべりしているみたいな」と広尾氏。応援団を中心に熱量のグラデーションが外に薄く広がっているイメージだそう。
では、これまでヤジを飛ばして楽しんでいた人はどうしているのだろうか。
広尾氏いわく「高齢化している」。過激なファンが高齢化した今、新しく同様の応援をする人たちが再生産されていることはないのだそう。ならば、だんだん消滅していくかのように思えるが、広尾氏は「でも悪貨は良貨を駆逐する。過激で面白いものはひょっとすると残ってきているのでは」とも語った。
■これからの“応援”スタイル
球団側としても、相手チームに迷惑がかかるようなことは避けたいのが本音。「他チームは商売敵ではなくて同業者。同業者を叩くようなことはできない。だから球団としてはもっとソフトにしてほしいし、もっと穏やかになってほしいとずっと思っている」とは広尾氏。
さらに、北海道のエスコンフィールドを例に挙げ、これからはあまり野球を知らないライトなファンを取り込んでいくべきだと提言。サウナに入りながら野球観戦できたり、試合終了後も飲み屋が開いているなど“野球も見たけりゃ見て”というマーケティングをしているのだという。そのうえで、「応援団はいてくれた方がいい。環境音楽、BGMみたいなものだ。あまりうるさくならないように一番高い席に行ってしまっている」のだそうだ。
これには、過激な応援を先導していた長谷川氏も「プロ野球の人気がずっと続くなら、いろんな方法、時代に沿ってずっとやるのもありなのかな」と賛同。ライトなファンがスタジアムに通っているうちにチームを好きになりファンになっていく、そんな今後のスタイルに期待した。
(『ABEMA Prime』より)
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