明治大学新聞のブログに掲載された“ある記事”が反響を呼んでいる。記事のタイトルは「出産拒否」だ。
「口先だけの出産奨励に腹を立てるしかない」(明大スポーツ新聞より)
書いたのは、韓国・ソウルから日本に留学中の大学生ジン・セウンさんだ。
「1年生のときに自分が書きました。一番の理由は、環境的にお金が十分ではないと子供を育てるときにすごく大変だと思ったからです。自分はキャリアウーマンとしてすごく仕事をしたい。自分が犠牲にならないと、子どもを産んでから大変だなと思いました」
日本よりも少子化傾向が進む韓国。2022年の合計特殊出生率は0.78だった(※日本は1.26)。若者の経済事情も厳しく、10年前には「恋愛・結婚・出産をあきらめる」と言われていたのが、今では「就職・マイホーム・夢、すべてを放棄する」と言われるようになった。
投稿された記事には「育児は時間を投資することである。おむつを取り替え、泣く子をあやす。寝かせるには、誰かがそばにいなければならない。これは、単に数日間やることではなく、数年間続けなければならない仕事である。当然、自分の夢はしばらく譲らなければならない」とジンさんの切実な思いがつづられている。
女性にかかる育児負担が重い韓国では、出産がキャリア形成に大きく影響する。こうした状況に、ジンさんは「生きていくためには、まず自分のキャリアと生活の安定が優先です」という。
韓国は過酷な学歴社会で、教育費の負担も少子化の一因と指摘されている。2022年、韓国で塾など学校以外の教育に使われたお金は日本円で約2兆9000億円と、過去最高額を記録。高校生の塾通いに月々約7万円もかかっているという調査結果もある。
「韓国は大学に行かないと『人生の失敗』と言われます。だいたいの高校生が、大学に絶対に行かなきゃいけないと思っているのです。日本では、授業が終わったら放課後に部活をやる学生もいますが、韓国の学生は授業が終わったらすぐ塾に行って、ほぼ夜中の10時まで勉強するのが一般的です」
こうした状況に6月、ユン・ソンニョル大統領は日本の大学入学共通テストにあたる「大学修学能力試験」で、学校で教える範囲を超えた難しい問題、いわゆる「キラー問題」を排除するよう指示した。
キラー問題が塾通いを助長しているため、これを排除して教育費負担を抑えることが目的とみられている。しかし、少数の有名大学を目指す熾烈な争いは変わらず、効果は未知数だ。
「今の社会では、子どもを産んで幸せに生きていけるか分からない」と話すジンさん。自分が受けてきた教育と同等の教育を受けさせようと考えると、出産自体が難しい――。こうした不安は、日本の同年代とも共通している。
「日本でも高校や中学で私立に行くとすごくお金がかかる。私立を卒業した日本の友達が『自分がいい環境で育てられたから、子どもにも同じ環境をあげたいと思っても、お金がないと難しい』と言っていました」
韓国の若者の経済状況について、ニッセイ基礎研究所上席研究員の金明中氏(亜細亜大学特任准教授)は「かなり厳しくなっている」と話す。
「韓国の大学進学率は70パーセントを超えていますが、実際の大卒者の就業率は64パーセントにとどまっています。多くの若者が非正規職で、経済的にかなり不安定です。若者の就業率が低い理由として、新型コロナの流行や米中関係の悪化などの影響で景気が悪くなったこともありますが、大企業と中小企業の賃金格差がかなり大きい。だから若者は、就職浪人をしても大企業に入ろうとします。または公務員試験を頑張ります」
就職ができないと結婚ができない。結婚ができないと子どもが産めない――韓国の環境は日本より過酷だという。
「家の経済的格差も関係しています。経済力がある家庭ではそれほど問題ではありません。一方で、経済力がない家庭では、借金をしてでも子どもを塾に通わせる。韓国は何をやっても、まず大学進学が前提です。小学生の時から夜遅くまで勉強することが、当たり前の社会になってしまった。実際、大学に入ると、希望の専攻を勉強する学生はかなり少ない。就職や公務員試験の準備をしている若者が多いからです。もともと大学の本質は、学問の探求ですが、これがだんだん機能しなくなっているのです」
(「ABEMAヒルズ」より)
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