逃げる先は避難所ではなく「避難場所」 旅先で地震や津波が発生したらどうする?命を守るためのポイントを専門家に聞く
【映像】旅行前に知っておきたい情報
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 近畿地方を縦断し、中国・東海地方に大雨をもたらした台風7号。鉄道や空の便の乱れで影響を受けた旅行者も多く、こうした報道を見て旅先での被災について考えてみた人もいるのではないだろうか。

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 「旅行中の短い期間に起きる確率は低いだろう」「旅の前に悪いことを考えたくない」と思っても、土地勘がない旅先でも最低限、命を守るために知っておきたい情報を防災政策の専門家に聞いた。

「何か災害が起こって避難しなければならない、今すぐに命を守るための行動をとる場合には“避難場所”に避難をしなければいけない」(近畿大学 経済学部・村中洋介准教授)

 一見当たり前のように思えるが、ここでのポイントは、逃げる先は「避難所」ではなく「避難場所」であるということ。

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 避難場所は、災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所で、安全な構造の堅牢な建築物や危険が及ばない屋外の場所などが指定されている。それに対し避難所は、災害によって自宅に戻れなくなった被災者などが一時的に避難生活を送る場所で、公民館や学校などが指定されている。

 東日本大震災の前はこの2つが混同されていたため、被害が拡大する原因になったという。

「東日本大震災のときに大きな津波が来て、避難所に逃げようとしたが、実は津波に対しては対応できない場所だったこともあった」(村中准教授)

 こうした被害が発生したことから避難所と避難場所は区別された。避難場所は、津波、火災、洪水など、災害の種類ごとに自治体などによって指定・公開されている。

 ただ、旅先では、複数の場所を自治体のサイトから調べるのは手間がかかるため、国土地理院の「指定緊急避難場所データ」やYahoo!天気・災害の「避難場所マップ」などを使うのも1つの手だ。

 今いる場所や旅先の場所から、避難場所を地図で探せるほか、どの災害に対応しているのかもわかる仕組みになっている。緊急時には通信手段が使えない可能性もあるため、できれば事前に把握しておきたい情報だ。

 そのうえで、もう一つ考えておきたいのは避難場所までの経路だ。

「地震が起こった時に、津波が来るから高台の避難場所に避難しようと思っても、考えている経路が地震による土砂崩れや崖崩れで通れない可能性もある。住んでいるエリアの周りぐらいであれば日頃から見ておく必要はあると思うが、旅先だとなかなかそうはいかないので、地域の人たちが近くにいればそうした人に聞く方がいい」(村中准教授)

 それでも、すべての人がすべての場所において被災した場合を想定しておくのは現実的には難しいかもしれない――。

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 そのため、仙台市では、津波が発生した場合に避難場所にアドバルーンを掲げる実証実験が行われるなど、個人の意識だけに頼らない方法が研究されている。プロジェクトを発案・主導した成田さんはこう話す。

「逃げる意識を持つことももちろん、非常に重要な最初のポイントだ。しかし、私たちの研究では逃げようと思っても逃げられなくなってしまう可能性にフォーカスを当てたいと思っている。土地勘が無い人でも1発で誰もが分かるようなものがあったらいいなと」(東北大学 津波工学研究室・成田峻之輔さん)

 現在はVRなども使い、課題の改善や効果の検証を行っているという。

 楽しい旅の前に、悪いことは考えたくない―災害への準備を妨げるこうした心理について『ABEMAヒルズ』では、臨床心理士・公認心理師で明星大学心理学部教授の藤井靖氏に聞いた。

「楽しみにしているほど、自分には災害が起こりえないという『正常性バイアス』が強くなってしまう。また、この時期は多くの人が旅行をしていることから、『自分も大丈夫』という根拠のない自信を持ちがちになりやすい」

「災害時に望ましい行動を取れる人は10%くらいしかいないと言われている。強いストレスがかかった時は体の反応が自動的に起こって、その状況で生き延びるための身体反応が優位になり体の力は上がる。一方で、相対的に認知能力は低下し、フリーズして頭が真っ白になる感覚に襲われたり、正常な五感や時間的な感覚が保たれなかったりする。平時に考えられていたことができなくなるのは誰にでも起こりうるため、アドバルーンのように認知機能を使わなくてもわかりやすく判断できる方法は非常に大事だ。『避難場所』という言葉も、『緊急退避エリア』などと直感的に理解できる表現に置き換えることも有用かもしれない」

 藤井氏は、過去の研究データを元に「旅先被災危機意識チェック」を作成した。リストは以下の通り。

■旅先被災危機意識チェック(※1、2、3、5、9は“はい”の場合、4、6、7、8は“いいえ”の場合カウント)

(1)旅行先で災害が起こった際、何が起こるかのイメージがつく
(2)災害時、自分がまずどんな行動を取ればいいか分かっている
(3)ニュースを見て「自分だったら」と考えることがよくある
(4)自分の努力で被災を予防することができる
(5)旅行先で災害がいつ起こるかは予測できない
(6)災害対策はどこの場所でも講じられている
(7)自分にメリットがないとやる気が起こらない
(8)周りの人にポジティブ思考だと言われることがよくある
(9)人のために何かしたいという思いが強い

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 このチェックでは、当てはまった数により災害に対する想像力や知識、個人の特性がわかるという。

「7〜9個当てはまったら、防災意識があって普段から旅先の被災に関する認識が高いレベルで持たれているということ。一方で、0〜3個だと災害に対する想像力が低かったり、それに備えた準備もできていない可能性があるので、仮に自分や家族、大事な人に命の危機が及ぶような状況に直面したらどうするか、まずはそれをイメージしてみるところからスタートして、意識を変えていけるとよいかもしれない」

(『ABEMAヒルズ』より)

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