永瀬拓矢王座、本戦で後手番7戦全勝の“鬼軍曹”化「藤井竜王・名人は後手番でも勝つので勉強中」/将棋・ABEMAトーナメント
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 不利と呼ばれるものを勉強量で覆そうとしている“鬼軍曹”がいた。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」本戦トーナメント準決勝・第1試合、チーム永瀬とチーム天彦の対戦が9月9日に放送された。リーダー永瀬拓矢王座(30)は第3局、第5局、第7局と3局全て後手番で登場。全て異なる相手と対戦し、手厚い将棋で下してチームを決勝へと導いた。プロの間でもハイレベルになるほど、先手・後手の違いが大きく勝敗を左右すると言われる中「藤井聡太竜王・名人は後手番でも勝つので勉強中です」と、強く意識する天才棋士の名前を出しつつ、永瀬王座が後手番で“鬼軍曹”がごとく勝ちまくっている。

【映像】快勝を振り返る永瀬拓矢王座

 先に相手の玉を詰ますと勝ちになる将棋というゲーム。対局者に棋力の差があれば先手・後手の差は大したことにならないが、これがプロの世界となれば大きく違う。戦型の選択、その後の進行など、予め先手・後手が決まっていない多くの対局では、振り駒によって棋士の運命が大きく左右されることもある。それでも強者になるほど先手・後手どちらも変わらず高い勝率を残している。永瀬王座は、さらに後手番の勝率を高めるようにと日々の研究でも重視しているようだ。

 この試合で初登場となった第3局は、名人3期の実力者・佐藤天彦九段(35)とのリーダー対決。自ら誘導して横歩取りから始まると、永瀬王座は研究範囲内とばかりに猛烈なスピードで指し進め、どんどんと時間差を広げていった。中盤まで均衡が保たれたところ、永瀬王座は一手の隙を見せることなく、自玉の安全度を的確に判断。「常に神経を使う将棋だった」と振り返りつつ、観戦していた増田康宏七段(25)が「やばいね、これ。強すぎ」と舌を巻くほどの内容で、堂々と110手で勝ち切った。

 次の相手は「桂馬の貴公子」三枚堂達也七段(30)。第3局と同じように横歩取りに誘導すると、またも序盤からスピーディに指し続け、序盤からプレッシャーをかけ続けた。先手の三枚堂七段が攻めの糸口を見つけあぐねる中、永瀬王座の攻めの迫力がじわじわと増して、中盤以降もさらにリード。しかも築いたリードを絶対に渡さないように終盤に向けてはとにかく手堅い指し回しに終始すると、三枚堂七段の粘りも重なり、188手をかけて勝利した。

 最後の相手は戸辺誠七段(37)。勝てば決勝進出が決まる状況での登場となると、振り飛車党の戸辺七段が中飛車穴熊に構えたところ、永瀬王座も居飛車穴熊で「相穴熊」を選択した。お互いがっちり守りを固めてから、激しい終盤に突入すると解説していた阿久津主税八段(41)も「すさまじい速さで進んでいる。ついてこられる人、いるんですかね」と猛スピードによる指し手の応酬に。それでも永瀬王座は「1つ読み抜けがあるとダメな将棋。緊張感がありました」と振り返るように、神経を研ぎ澄ませて144手で勝利。見事に全て後手番で3連勝し、チームを決勝へと導いた。

 納得の個人3連勝で、本戦に入ってからは8戦して7勝1敗。しかも7勝は全て後手番で挙げたものだ。「後手番をメインに指して、先手番で2人に勝っていただくというプランではあるんですけど、それがなかなか個人としてはうまくいっています」とチームの作戦であることを明かした後、「藤井聡太竜王・名人もそうですが、やっぱり強い方というのは後手番でも勝たれる。後手番で勝つ技術も必要になってきているのかなと思っていますので、勉強中です」とも語った。

 同大会では2度目の優勝に王手をかけた。また公式戦でも永世称号「名誉王座」がかかる王座戦五番勝負では、藤井竜王・名人を相手に第1局、後手番で非常に大きな1勝を挙げた。ストイックさから「軍曹」と呼ばれたトップ棋士が、さらに後手番に磨きをかけて「鬼軍曹」に。後輩の天才棋士を強く意識し切磋琢磨してきた永瀬王座が、さらに凄みを増してきた。

◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
ABEMA/将棋チャンネルより)

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