イラン参戦は「ひとつ間違うと起きる」 緊迫のパレスチナ情勢「イスラエル先制攻撃」で最悪のシナリオも イスラム地域研究の専門家が指摘
【映像】涙ながらに語るガザ地区の住民
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 イスラエル、ガザ地区の双方を合わせた死者が4000人を超えた。イスラム組織『ハマス』との衝突後、初めて戦時内閣の閣僚会議を開催したイスラエル・ネタニヤフ首相は15日、「最前線にいる我々のすばらしい戦士たちを見た。彼らは我々に立ち向かってくる血まみれの怪物に対していつでも行動を開始できる」と述べた。ハマスが実効支配するガザ地区への地上侵攻準備が整ったと強調。イスラエル南部のガザとの境界付近にはイスラエル軍の戦車が集結しており、さらなる戦況の悪化が懸念されている。

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 そうしたなか、ハマス支持を表明しているイランに注目が集まっている。ロイター通信によると、アブドラヒアン外相が直接関与の可能性を示し、イスラエルに警告。外相はアメリカに対しても「戦争が拡大すればアメリカにも大きな損害が及ぶだろう」(ロイター通信より)としている。

 9.11に端を発したテロとの戦いでアメリカのブッシュ大統領(当時)はイランに指して、「このような国々とテロリストの同盟国は世界平和を脅かすために武装した“悪の枢軸”である」と批判した。イランは本当に悪の枢軸なのか。16日の『ABEMA Prime』では、イラン参戦の可能性とガザの最新動向を専門家が解説した。

イスラエル・ガザ地区をめぐる最新状況は?

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 現代イスラム地域研究が専門の同志社大学大学院・内藤正典教授は「トルコのテレビ放送では、ここ2日ほどでイスラエル側にいた大量の戦車が取材記者の目から見えなくなったと伝えている。つまり、ガザとの境界まで移動している。一方、ハマスは大量の戦車用の地雷などを敷設したか、地下にトンネルを張り巡らせ、戦車が落下するように仕向けている。さまざまなトラップを仕掛け、防御のための特殊車両も配備されているようだ」と解説。

 また、「ガザ北部住民の約110万人に避難指示が出ているが、約50万〜60万人しか移動できていない。そもそも動く手段がない。すでに家などを破壊されているため、一軒の家に5、6家族が滞在している。アラブの人やイスラム教徒は、家単位で一緒に動こうとするので避難は進まない」と述べた。

 さらに「一度離れたら二度と帰れないという思いが強い。1948年のイスラエル建国をパレスチナ側の人たちは“ナクバ”=最大の災いと呼ぶ。ガザには当時から難民が大勢いた。ガザは総面積365平方キロのところに、人口220万~250万が暮らし人口密度が高い。福岡市と同程度の面積で、かつ100万人近く人口が多い。ガザは基本的にこの地域から出られないので青空監獄と呼ばれている。そのためWHOも“北部の人々を南部に移せというのは、南部の医療機関にとって死刑宣告に等しいという言葉で強く非難している」と述べた。

“最悪のシナリオ”イラン参戦の可能性は?

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 なぜイラン参戦の可能性があるのか。

 内藤氏は「イランはイスラエルの存在を認めない立場を崩しておらず基本的に敵同士だ。また、イランの息のかかった武装勢力が西隣のイラクやさらに西のシリアにもいる。シリアの内戦下でアサド政権側につき、反政府勢力へ激しい攻撃を加えたのはイラン革命防衛隊の傘下組織だった。今のイスラエル、パレスチナの北に位置するレバノンにも、同じくイランの息がかかったシーア派勢力のヒズボラがいる。イランは直接参戦しなくても、自分の周りにいる手下たちがイスラエルに攻撃する状況を作り上げている。今回もハマス以外にヒズボラがロケットを撃ち、イスラエルが反撃している」と答えた。

 一方で「一触即発なので、ひとつ間違うとイランの直接参戦が起きる。それはイスラエルが先制攻撃を仕掛けた場合だ。万が一、ホルムズ海峡が火の海になれば原油・石油は来なくなる。世界経済は地獄に突き落とされてしまう」と指摘した。

 また、「ハマスが大量のロケットなどを効率よく生産する技術や、イスラエルへの大規模攻撃が事前に情報が漏れなかったことも、イランの影響があると見られている。ただ、ガザ市民がイランを好きかというとそうではない。ガザの友人から“隣のシリアでイランの革命防衛隊勢力は住民を虐殺した”とのメールが届いた。住民は主にスンニ派だ。イランは隣国で、自分たちの同胞を殺戮する側にいたことを知っている。ハマスの戦略的な繋がりと市民の思いは重ねないほうがいい」と述べた。

 イスラエルはどのようにテロリズムに対応すべきか。

 内藤氏は「今となっては手遅れだ。2005年にイスラエルはガザの占領を解く代わり、完全に封鎖して青空監獄にした。そこを起点にして、ガザ住民の若年人口は50%近くになっている。生まれてから20年の間、外に出かける自由がない状態の若者たちがそれだけいる。他に手がないとなればハマスの一員となって、敵と戦うところに吸い寄せられてしまう。イスラエルは、人々から自由を奪って閉じ込める政策は無理だと知るべきだ」と批判。

 一方で、「ハマスの大きな罪は、イスラエルの反撃でガザ市民が膨大な犠牲を払うことを知っていて攻撃したことだ。これは許し難い。しかも、トルコの国営放送などが報じたが、ハマスのリーダーはカタールにいる。そこでイランのアブドラヒアン外相と会った。本人は安全な所にいる。これはひどい」と述べた。

米国とイランは先月まで雪解けに向かっていた

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 先月、アメリカとイランは囚人の交換を行った。これに内藤氏は「中東での緊張は緩和・雪解けの方向にあった。だから交渉をして人質交換ができた。国交がないにも関わらず対話を始めたのは、お互いが口をきく関係に戻りつつあったということだ」と指摘。

 しかし、「9月の国連総会でネタニヤフ首相が演説した時に、イスラエルのハイファ港からアラビア半島まで1つの弧を描くようにしてこれがつながると言った。ただ、演説で使われた地図を見るとパレスチナの周辺には、イスラエルしかない。この時点でネタニヤフはすでにパレスチナを抹殺した状態を想定して他のアラブ諸国との友好関係を訴えていたことになる」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)

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