■施設に預けた母の言葉に「そばにいることがマストではないんだなと」
一方で、親の介護を諦めた人もいる。5年前、離れた場所で暮らす母親に認知症が発覚した、山中浩之さん(59)だ。
「私は東京で生活しており、母は新潟で一人暮らしだった。“親の面倒を子どもが見るべき”だと思っていたし、自分がやるとしたらどうなるんだろう?と考えていた。しかし、距離の問題もあるし、仕事を辞めて介護をするのは無理だと、自分の中で結論が出た。悩んだ結果、プロの力を借りるしかないということで、最初は母の自宅にヘルパーさんに来て頂く形から始めた」
石橋さんのような経済的な問題はなかったのか。
「親の年金に加えて、少額の仕送りをすることで、貯金の取り崩しをせずに介護を受けることができた。介護保険を使うことでそれが可能になった。私は書籍の編集者だが、たまたま在宅でお母さんを介護した方の本を作った。その方もずっと1人で介護されて、とうとう自分の母に手をあげてしまったと。それを大変悔いておられて、“地域包括支援センターへ相談に行き、状況を話して適切な支援を受けなさい”と訴えている。本で書かれていた症状、状況が自分の母にも出ていたので、私も相談に行った。そこから先は正直、私がどうしたいというよりも、アドバイスに従って動いた」
施設に預けた結果、母親の体調が良くなり、笑顔も取り戻したという。
「認知症になってしまった親は、子どもからすると見るだけでつらい。“こうあってほしくない”“自分もこうなるのか”というどす黒い感情がどんどん湧いてくる。私の場合は遠距離だったので、否応なく施設に預けたのだが、結果として親が明るくなり、気持ちが安定してきた。生き返ったと言うと大げさかもしれないが、生き生きとしている。施設を紹介してくれたケアマネさんが『山中さんのお母さんは人にチヤホヤされるのが好きだから、そういう所がいいですよ。私が探しますよ』と言って、探してくださった。今日も帰省して会って来たが、ニコニコして『今本当に幸せ』みたいなことを言う。そばにいることがマストではないんだなと思った」
■「疲弊した介護が当たり前になってる現状が問題」

