秋の臨時国会で岸田総理が表明し、議論の焦点となっているのが減税だ。「所得税・住民税の減税によって、2年間の税収増加分を還元することで、この物価高に対して支援を行う」。具体策として、1人あたり4万円の定額減税を行い、低所得世帯については1世帯あたり10万円を給付するという案になっている。
ネット上では「増税メガネ」という批判から一転、「減税ウソメガネ」という新たなワードがトレンド入りする事態になっているが、減税案は現実的なものなのか。27日の『ABEMA Prime』で議論した。
■岸田総理の経済対策案に対する“6つの疑問”
今回の減税・給付案について、東大を総代(首席)で卒業し、現在はマサチューセッツ工科大学経済学部(博士課程)に在籍する経済学者の菊池信之介氏は「この還元とはなんぞやというところで、まずわかりにくい。そして、“物価高に賃金上昇が追いつかないから、それまで本当に生活に困っている方にお金を”というニュアンスで岸田さんは話していたが、タイミング的に来年6月だと遅いだろう。なぜ給付にしないのかという話もある」との見方を示す。
岸田総理の経済対策案に対する6つの疑問を菊池氏に聞いた。
・金額が少ないのでは?
「お金を配ったら景気がブーストするというのは、実はエビデンスがない。コロナの時、あるいはその前に給付金を配っていたが、いろいろなデータを見ると、実は10パーセントぐらいしか使われていないと。あまり期待はできないが、生活に困っている人に対してはもちろん意味はある」
・時期が遅すぎるのでは?
「これは本当に遅いと確信を持って言える。4月に賃上げするのが日本はよくあるかたちだ。“賃上げが追いつくまで”という理由を正当化するには、それより前に配るのが筋なのではないか」
・1年限りでは意味がないのでは?
「完全に定額給付金と同じ効果だ。いわゆるワンショットで、その時嬉しい人もいるが、経済がそんなに大きく変わる気はしない」
・給付金の有無で分断を生むのでは?
「もちろん不公平感はあるだろうし、ひろゆきさんもTwitterで書かれていたが、働いている人が損をしているではないか、やってられない、と言うのは、それはそう思う」
・お金を配ったらさらにインフレが進むのでは?
「なぜインフレの時にお金を配ってさらにインフレを加速させるのか?というのはもちろん教科書的な話としてある。一方で、アメリカのようなインフレが日本で進むかというと、やや疑問がある。アメリカでお金を配ったからインフレが起きたというのは、需要が増え、みんな物を買うようになったから。一方で今の日本は、原材料や原油の価格が上がった、あるいは円安という話なので、そのまま当てはめられないというのが1つ。日本銀行は今頑張って金利をいじろうとしていると思うが、株価への影響からなかなか同時にはいじれないのだろうと推測している」
・将来のためにとっておいたほうがいいのでは?
「防衛増税や異次元の少子化対策が控えているというのはポイントだ。後者は半年前、おそらく岸田政権の一番の売りだったと思うが、じゃあお金はどこから持ってくるの?と言われたらまだ決まっていない。“どうなってるの?”というのは否めない」
菊池氏の見立てでは、日本経済に楽観的な人は少なく、「円安の中、円建ての海外の収入などで企業収益は高くなっていると思う。しかし、生産と消費、あるいはイノベーションを考えると、長期的に日本が明るくなるとは思えない」という。
それを受けネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「来年新NISAが始まる。余ったお金があったらNISAに入れたほうがいいよね、投資するならやっぱり海外がいいよね、となると、5兆円が海外に行き、余計円安の圧力になるのではないか?」と疑問を呈する。これに菊池氏は「おっしゃるとおり、全然あり得ると思う」と述べた。
■「チグハグな政策に国民も気づいているという、最悪な状態」
「増えた税収を還元する」という岸田総理の説明に対しては、まず国の借金(新規国債発行額、2020年度は初の100兆円超え)を返すべきではないかという議論もある。
起業家の成田修造氏は「構造的に国債の発行残高が増え続けているというのは、ずっと言われていること。将来増税できるポテンシャルがあることを前提に国として成り立っていると理解しているので、当然やっていかないといけないし、社会保障にも手をつけないといけない。しかし、そこに選挙が入ってきたり、批判があったりして、付け焼刃で対応しているからチグハグな政策が出てくる。それに国民も気づいているからはまらないという、最悪な状態だと思う。一度諦めて、筋の通ったことを長期的にやっていくしかない」と指摘。
これに菊池氏は「国民が気づいているというのは、そのとおりだ。不思議に思ったのは、減税と言われたら本当は嬉しいはずなのに、これだけみんながワーワー言っている。そもそもコミュニケーションを間違えたのかなとすごく感じる」と述べる。
では、この局面での最適解は何なのか。「短期的なところと長期的なところをちゃんと分けて考えること。物価高に対して収入が追い付かない人にお金を配るのはもちろん大事だと思う。一方で、異次元の少子化対策だったり、長期的なところにも目を配って、国民の信託を受けた政治家が最後はウエイトを決めていく。この“決めること”だと私は思う」とした。
さらに成田氏は「長期的な投資で見ると、僕は岸田さんにけっこうポジティブだ。少子化対策をあれだけ明確に打ち出したこともそうだし、スタートアップ政策に10兆円投資するというのをどの政治家よりもちゃんと言ったと思っているし、それらを通したのはすごい。なぜそれを軸に動かないんだろうというのは悲しく思う」とコメント。
ひろゆき氏は「岸田さんが総理になった時、『分配なくして成長なし』と言ったにも関わらず、分配をやっていなかったよねと。結局何するの? 言ったけどやらないよね、というのがやっぱり国民にはあるのだと思う」とした。(『ABEMA Prime』より)
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