再生医療抗加齢学会が、医学的に承認されていない行為で患者が死亡した事故に関する情報を発表した。この行為を“若返りや美容”のなどの効果をうたって行うクリニックもあるが、研究者は警鐘を鳴らしている。
再生医療抗加齢学会がホームページにて「幹細胞上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と発表すると、「幹細胞培養上清液」という聞きなれない言葉にもかかわらず、SNSでは大きな話題となった。
再生医療抗加齢学会に所属する複数のクリニックの情報によると、「幹細胞培養上清液による治療」と呼ばれているものの多くは、幹細胞を培養した際に出る上澄み液に含まれるエクソソームという物質などを点滴や点鼻などの方法で人体に投与し、『若返り』や『美容』『身体の痛みの改善効果』などが期待されるとうたっている。
しかし、医療として承認された行為ではない。再生医療抗加齢学会も「医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」とアナウンスしている。
死亡例の詳細は不明だが、この物質の投与については、効果も安全性も確認されていないとして、以前から警鐘を鳴らしていた研究者がいる。
大阪大学産業科学研究所 曽宮正晴助教は「科学的な根拠がない医療的な行為で、実際にその健康被害が生じているとすれば、倫理的にも科学的にも非常に大きな問題だ」と警鐘を鳴らす。
細胞から分泌される物質であるエクソソームにはタンパク質やRNAなどが含まれ、細胞間の情報を伝達する役割があることから、病気の治療に使えるのではないか、などと研究が進められている。
しかし、それはあくまで「研究の段階」だという。曽宮助教は「エクソソームを体内に入れて何かを治すことが人で実証された例がない。おそらく、基礎研究段階のものから飛躍して、『これが人にもいろんな効果がある』『安全である』と喧伝しているケースが大半だろう」と指摘した。
曽宮助教によると、厳しい規格が設けられている医薬品とは違い、製造工程や手法などで基準が定められていないため、身体に危険をおよぼす可能性もあるという。
「生物由来のナノ粒子であるため、例えば人から採ってきたものについてはおそらく感染症のリスクがある。あるいは、どういった工程で作られているか分からないので、不純物が体に悪影響を及ぼす可能性もある」
研究者でも不純物を取り除くのは困難であり、そもそも幹細胞培養上清液にどのくらいのエクソソームが入っているかを正確に測定することも難しいという。
『ABEMAヒルズ』の取材に対し、再生医療抗加齢学会は、「現在該当省庁が調査していると聞いておりますので、学会としてのコメントは差し控えさせていただきます」としており、患者が死亡した経緯などはわからなかった。
学会は「会員が関連する事故ではない」としつつ、この発表をした理由をこう説明している。
「学会としては、当該治療法を推奨しておらず、会員様にも慎重に取り扱うよう主催セミナー等で啓蒙しており、今回も注意喚起の意図で会員様向けにHP上でご案内をさせて頂いております」
曽宮助教は、「エクソソーム自体が悪いものではない」としたうえで今後は「苦しんでいる患者のために努力している研究者もいるので、きちんとした手順を踏んだ研究に期待してほしい」と述べた。そして、「一部のクリニックの情報だけでなく、真摯な研究者らが発信する情報にも耳を傾けてほしい」と訴えた。(『ABEMAヒルズ』より)
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