全世界165カ国で放映され、10億人以上が熱狂するスポーツエンターテインメント団体「WWE」に参戦する中邑真輔。先月の試合では同団体のトップ王座『WWE世界ヘビー級王座戦』に挑戦し、日本人初の快挙まで目前に迫るなどトップレスラーとして実力を見せつけている。
中邑は新日本プロレスのトップ選手だった2016年にWWEへ電撃移籍。米国移住に多くのファンが驚くなか、世界最高峰の団体でトップへ駆け上がった。そんな中邑を世界に駆り立てたのは何だったのか。どのような壁があり、自分をどう表現したのか。若者たちに伝えたい世界に挑戦する意味を『ABEMA Prime』で語った。
「8割がメディア収入」WWEのビジネスモデルとは
今年でWWE挑戦7年目を迎えた中邑は「米国に行って日本で経験してきたことを微調整したこともあるし、タイミングや流行りもある。それを敏感に感じながら、変わっていないようで結構変えている」と、自身のスタイルを表現。WWEで数々のトップ選手が獲得してきたIC(インターコンチネンタル)王座を日本人として初めて獲得するなど、日本人レスラーとしては類を見ない成功を収めている。
WWEは世界的なスポーツエンターテイメントとして知られ、会場には常時1万人規模の観客が詰めかける。プロレス団体としては極めて異例の規模だ。
中邑は「WWEが作ったビジネスモデルは、コンテンツを作って、それをテレビ局に売る形をとっている。カメラや映像スタッフ、音響、大道具、小道具も全てWWEが用意し、会社の一部だ」と説明した。
WWEの純収入(【図】を参照)は日本円で約1705億円、うち8割がメディア収入だ。パイを広げるほど収入が増える構造のため、中国やインドなど新しい市場も開拓して拡大。米国を拠点にしながら海外でイベントを開催しても客席は満席となる。「世界各国で放映されているので、ターゲットは子どもを中心とした家族。子どもが観に来たいので、両親や祖父母も来る。先日ドイツに行ったが、普段は米国でしかやっていない興行が近くで観られるので、周辺地域からお客さんがたくさん集まった」と中邑は語る。
米国挑戦で実感した“海外の壁”
どのように海外の壁を乗り越えて成功を掴んだのか。
日本で培った土台を米国に持ちこみ、地位を確立した中邑は「キャラクターはすごく大事。僕は米国では外国人。それだけでキャラクターだ。米国人のレスラーは、自身を特別な存在に見せるキャラクターを自分で作り上げなければいけない。僕が日本刀を振り回して着物を着るのは簡単なキャラ付けだが、やらなかった。日本で作り上げたキャラクターを持って行き、そのプレゼンテーションで戦ってきた。流れの変化とともに新しい味つけをしながら、今のスタイルに落ち着いている。喋り方や衣装、髪型や目の色などもそう。自分のキャラクターを見つけて確立するのはプロレスラーなら誰もがやることだ」と述べた。
日本とは異なる米国の観客を惹きつける工夫も絶やさない。「パフォーマンスをしていると、“嫌い”でも“好き”でも、お客さんの熱が伝わってくる。無関心が一番困る。僕は今“ヒール”(=悪役)だが、子どもが親指を下に向けてくると、余計に煽る。汚い言葉は使わないが、観客が立ち上がって物を投げてくるくらいがいい。すると周りのお客さんも乗ってくる。エネルギーの交換という感じがする。あとは焦らす。大きい会場になればなるほど、投げかけたモノが何倍にもなって返ってくるため、次のパフォーマンスがもっと大きくなる」という。
SHIBUYA109 lab.の調べによると、Z世代の留学指向は42.4%と過半数を下回り、海外へ積極的に行きたい若者が以前と比べて減っていると言われる。
この現状については、「子どもの頃から海外への憧れがあったが、経済的な理由で行けなかった。有名になる、強くなる、お金持ちになる、海外に行くという夢を全て叶えてくれるのがプロレスだった。昔は雑誌やテレビで海外の情報を手に入れていたが、今はネットですぐに情報へアクセスできる。ある意味、“知った風”になってしまう。行ってみて知りたいという欲が満たされてしまう。まず行ってみないと。物怖じするものでもない」と海外挑戦の意義を訴えた。
一方、言葉の壁については「英語でコミュニケーションは普通にとれるし、プレゼンや会話もするが、言葉だけで勝負する世界ではない。最初、僕はむしろ日本語を喋ってくれと言われた。日本語のほうが感情表現を豊かにできる。以前まで米国の視聴者は字幕を読まなかったが、最近はアニメのおかげでオリジナルの声優の声を聴くために字幕が流行っている。その意味ではドンピシャで当たったのかなと思う」と意外な実情も明かした。
中邑は、海外に行って実感した日本人らしさを「言葉でどう表せればいいか分からないが、国々の特色はある。簡単に言えば礼儀正しいなど、やはり日本人の美徳は感じる。日本の人はもっと日本のことを好きだと言ったほうがいい。米国では星条旗がどの街へ行っても大きく飾られているが、日本ではそうすることが憚られる雰囲気がある。それはどこか変だと思う」と述べた。
そして、「僕は子どもの頃から海外に憧れていたが、今はネットですべて分かってしまう。実際に海外へ行って味わう体験の素晴らしさを教えないと」と改めて語った。
(『ABEMA Prime』より)
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