「最高裁の踏み込んだ判決に感動」 俳優の不祥事と「公益性」めぐる助成金不交付の取り消し 『宮本から君へ』製作会社社長に聞く“映画に罪はない?”
【映像】公益性に反する罪の重さは?
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 2019年、当時公開を控えていた映画『宮本から君へ』に出演した俳優が薬物使用の疑いで逮捕、有罪判決に。この影響で文化庁所管の日本芸術文化振興会から出るはずだった助成金1000万円が交付されないことになった。理由は「公益性に反する」というもの。

【映像】公益性に反する罪の重さは?

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 映画製作会社スターサンズは、不交付処分の取り消しを求め振興会を提訴。一審の東京地裁では、振興会の不交付処分は合理的な理由があるとは言えないとして、違法との判決が言い渡された。しかし、二審の東京高裁では一転、振興会側の「薬物犯罪に寛容だという誤ったメッセージを発したと受け止められる恐れがある」との評価が著しく妥当性を欠いているとは言えないとして、処分は適法に。そして17日、最高裁は「本件助成金を交付したからといって、薬物乱用の防止という公益が害される具体的な危険があるとは言い難い」との判決を下し、逆転勝訴となった。

 ポイントとなった「公益性」とは何なのか。出演者の不祥事と作品との関係をどう判断すべきなのか。スターサンズの代表取締役社長で弁護士の四宮隆史氏をゲストに迎え、『ABEMA Prime』で考えた。

■最高裁が表現の自由に踏み込んだ判決

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 逆転勝訴の受け止めとして、四宮氏は「我々が主張したことが全て盛り込まれ、純粋にうれしかった。表現の自由という言葉に触れつつ、踏み込んだ内容だったことも感動した。交付要綱に“公益性の観点から交付を取り消すことができる”と追加されたのは、不交付の処分が下ってから。それに対して最高裁は、さかのぼって不交付にすることはしていけないと。公益性の観点で取り消されることは史上初だ」とコメント。

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 背景には社会の変化を感じているといい、「この映画は“お蔵入りにすべきだ”という声が多かったと思うが、訴えを提起した段階に比べるとそのまま上映する例が増えてきている。最高裁も裁判所も人の判断なので、世の中の流れを斟酌(しんしゃく)した部分もあるんじゃないか」との見解を述べた。

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 『宮本から君へ』は、同名漫画(作者:新井英樹)を映画化したもので、不器用な営業担当·宮本の恋と、恋人をレイプした相手との対決を描いた作品。有罪判決を受けた出演者は「2時間尺の中で出ているのは、トータル10分程度。彼がいることによって非常に重しになっている。ただ、薬物とは全然関係ない」という。

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 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「表現の自由は、基本的人権の中でも最も重い部類の権利で、制限するには相当重みのある内容が必要。実際に他者の権利を侵害していれば、“その権利を侵害しないようにしよう”と言えるかもしれない。仮にも文化庁みたいな行政府が、道徳的なところや人間の内面まで踏み込んでいいのかという議論はもっとすべきだ。今回は助成金の話だが、逮捕された俳優が出演する映画の公開停止、楽曲を配信停止するケースもあった。今回の最高裁判決はそこに一石を投じ、作品そのものを潰すことはやり過ぎだという、ある種の警告になっていると思う」と指摘した。

■出演者の不祥事と「公益性」

 出演者の薬物使用について、事前の検査等で防ぐことはできないのか。四宮氏は「日本の芸能界特有で、プロデューサーが事務所に言いづらい部分がある。どの映画も必ず検査するとなれば違うだろうが、撮影から公開するまでに半年から1年以上のタイムラグがある。撮影前に大丈夫だったから公開時も大丈夫、とは限らない」と話す。

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 では、罪の重さは関係あるのか。「犯罪が重いから駄目、軽いから駄目とは思っていない。基本的には犯罪が映画と全く関係のないことであれば、上映されるべきだし、助成金も交付されるべき。映画はスタッフ·キャストが100人ぐらいいて、その一人ひとりに表現の自由がる。1人の犯罪によってそれが制限されることをどう考えるかは問題だ」と訴える。

 一方で、ケースバイケースだという部分も。「例えば、男性監督が出演者の女優に性加害をした場合、優越的な地位を利用した悪質なハラスメントだ。スタッフやキャストが被害を申し出ている人物が作った映画というのは、いかがなものかと思う」とした上で、「加害側の名前がクレジットされた映画を、宣伝過程においてテレビで見る、映画館に行くとチラシで見る、それによって被害者の方にフラッシュバックが起きるというご相談はよく受けるので、慎重に判断しなければいけない」と付け加えた。

■作品に求められる倫理性

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 佐々木氏は「何でもかんでも倫理で切り分けていくのには反対だ」と主張。「出演者が実際に起こした犯罪と、作品の中でどこまで反社会的行為が描かれているかは切り分けないといけない。それこそ最近、“不快だ”という理由だけで、誰の権利も侵害してないのに拒絶する人が増えているが、非常に危うい風潮だ。本来、映画や文学は偏向的なものであることを打ち出して、ある程度踏み出してしまう表現があったり、俳優がいたりすることを社会として少し許容すべきだ」と訴える。

 助成金を受けたいがために、映画の中の表現を変えることはあるのか。四宮氏は「今だとあると思う。実際に『宮本から君へ』は芸文振の担当の方から“撮り直しをしないのか?”と聞かれた。スターサンズとしては絶対しませんという対応だったが、会社によっては受け入れるケースもあるだろう」と回答。

 佐々木氏はまた、助成金の意義として、「1960年代、70年代のフランス映画はハリウッドと同じぐらい人気があったが、近年はつまらないと言われている。それは80年代以降にフランス政府の助成金で映画を作るようになったという流れがある。娯楽映画より、文化省に喜ばれる映画を作る方向にシフトしていき、ポリティカルコレクトネスなものばかりが出るようになったからだ。助成金を出すのはとても大事なことだし、文化を振興するという意味で間違っていないが、文化の流れが国の望む方向に形作られてしまうという危険性は、業界も認識しておかないといけない」と投げかけた。(『ABEMA Prime』より)

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