「将来の夢は?」。過去に何度も聞かれたこの質問が、実は子どもたちを苦しめているかもしれない。夢がない人に「夢を持て」と強要すると、「ドリーム・ハラスメント」になりかねないのだ。
【映像】IT業界で働く川崎さん、小学生の時の夢は「働きたくない」
現在、IT業界で働く川崎さんもその1人。小学生の時に将来の夢を聞かれたそうだが、当時の考えは「働きたくない」。しかし、ちゃんとした職業を答えるまで帰らせてもらえず、とりあえず父の職業である「電気工事士になりたい」と、嘘を答えたという。なぜ特定の職業を将来の夢にしなければならないのか?という疑問もあったそうだ。「親の姿を見て、働くことに希望を持てなかった。労働時間が長かったり、土日も出社したり、働くのは何かを失うことなんだと」。
一方で、「将来の夢がないと、自堕落な人間に育ちそうで怖い」などの意見も。将来の夢は持たないといけないのか。大人は子どもをどう導いていくべきなのか。『ABEMA Prime』で専門家と共に考えた。
■「その子の人生に責任を持てる人が覚悟を持って聞くべき」
ディリーゴ英語教室代表の廣津留真理氏は「〇〇になりたいと名詞で言うと、夢が限定されてしまってそれ以上にならない。また、夢を押し付けられた時、習い事や教育で虐待になることがある。“あなたの夢は何ですか?”は誘導尋問なので、質問すること自体に作為がある」との見方を示す。
『ドリーム・ハラスメント』著者で多摩大職員の高部大問氏によると、中学生から大学生までの約1万人への取材、4人に1人以上が夢の強要に悩まされていたという。「“夢、夢と正直うっとうしい”とか、“夢がないからお前はそんな程度なんだ”と親御さんに言われたり。あとは、就職に有利になるから夢を持ったほうがいいだろうとか、メリデメで考えるのが嫌いというのもある。いずれにせよ、夢が否定される前に夢を持てという強要をされている」と説明。
東大博士課程で「カルモニー」代表の岩澤直美氏は、親に一度も夢は聞かれなかったそうだ。「高校に入る段階で、“義務教育は終わったから、なんで高校に行くのか説明をしてごらん?”“どこに行くにしても理由があったら学費を出す”と。一生懸命、何をしたいのかを動詞で考えた。大学に入る時も同じで、夢を聞かれるプレッシャーを感じずに済んだのはありがたかった」と振り返る。
「リザプロ」代表の孫辰洋氏は「子どもへの夢の聞き方は大事で、否定したらダメ。だから、既存の職業ではなく、動詞で聞く。そして、その子の人生に責任を持てる人が覚悟を持って聞くことがマストだと思う」とし、「子どもの目線からすると、会ったことある大人は学校の先生、塾の先生、親しかいない。そもそも職業を知らないし、社会も知らない。夢を聞くのであれば、その選択肢を広げる努力も同時にやらないといけない」と指摘した。
■キャリア教育が夢を強要?
若者の就職難や早期離職の原因として、「将来の目標が立てられない、目標実現のための実行力が不足する若年者が増加した」と分析した政府が、2006年から本格的に始めた“キャリア教育”。第3期教育振興基本計画には「夢と志を持ち、可能性に挑戦するために必要となる力を育成する」と記載されている。
高部氏は「文部科学省がなぜ非科学的な“夢”を投入したのか。2000年ぐらいはフリーター問題があり、“若者にやる気がない”という目線が結構あったことが背景にある。特定の人が適当に“夢を叶えたらいいよ”みたいなことを謳っているのではなく、教育がそういうふうにセットされてしまっている」と説明。
一方で、孫氏は「夢は明るく照らしてあげる存在にもなりうる」と述べる。「少なくとも自分は、“その夢、目標いいね”と肯定され続けた結果、未来は明るいのではないかと努力できたタイプだ。そして、大人はありのままを見せてほしい。さも、“自分は最初からサラリーマンを選んだ”みたいな顔をするが、“夢を追って失敗したけど、今こうなんだ”“最初はサッカー選手を目指していたけど、そうではないと思って軌道修正をしてこうなった”という過程まで見せてくれれば、夢を言うことは全然プレッシャーにならないと思う」。
高部氏は「社会が性的マイノリティの話にようやく耳を傾けるようになったのは、“努力で解決できない問題だから耳をすまそう”だと思う。一方で、夢は努力で解決できると思われていて、“夢を持つのは無料だ”という感覚がある。学生の声を紹介すると、“産業廃棄物だ”と自虐的に言ったり、中には“ニュースにならない殺人事件だ”とつぶやいている子もいる。社会の中で、想定されていない、居場所がないというのはしんどい」とした。
■キャリアは逆算型ではなく「加算型」で
高部氏は、キャリアを考える際、逆算型ではなく加算型を勧める。逆算型は、夢をゴール地点にして、そこから逆算して目標を細かく設定するもの。加算型は、今目の前にあることに取り組むことで、キャリアを積み上げていくものだ。「例えば、スカイツリーに行きたいと思って逆算すると、“とりあえず浅草に行って”などのアドバイスがしやすい。一方の加算型は、スカイツリーはランドマークになる。そっちの方角には行くが、紆余曲折はするし、良いお茶屋さんがあれば立ち寄ってみるような感覚だ。言い方を変えると、逆算型は減点主義。今までの日本の企業のやり方だ」と述べる。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「僕は加算型でも逆算型でもなくて、行き当たりばったり型だ。スティーブ·ジョブズが言っているConnecting the dots(点と点をつなげる)というのが、自分の人生に当てはまる。その時々で違うことをやっているが、人生を振り返ると、それらが繋がっていると絶対に感じる。今夢を持っていても持っていなくてもいいが、目の前のことを一生懸命やっていれば、良いか悪いかはわからないけどもきっと将来に繋がる、ということを教えてあげたい」とした。(『ABEMA Prime』より)
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