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【映像】NPO代表理事「健康管理を広めたい」
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 医療環境の整っていないアフリカ・タンザニアの奥地では、どうすれば継続的な支援ができるのか?日本古来の「置き薬」を使った取り組みを取材した。

【映像】NPO代表理事「健康管理を広めたい」

 300年以上前に、現在の「富山県」で誕生したといわれる「置き薬」。各家庭に薬箱を配置し、販売業者が定期的に訪問して在庫をチェックし、使った分だけ代金を請求するシステムだ。そんな日本古来の置き薬が、意外な場所で活躍していた。

 それが、遠く離れたアフリカの地、タンザニア。十分な医療体制が整っていない農村部で置き薬事業を行っているのが、認定NPO法人AfriMedicoだ。代表理事の町井恵理さんが、大学の薬学部を卒業後に、ニジェールでボランティア活動をしたときの経験がきっかけだった。現地の人から「日本人はお金持ちでしょう。子どもの薬を買うお金をちょうだい」と無心されたという。

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「『お金ちょうだい お金ちょうだい』と、“お金ちょうだいの歌”があるくらい言われる。自分でもそれに嫌気がさしていて。一度お金を渡してしまうとサスティナブルではないと思っていた。村の人たちは情報通なので『あの人に渡したのに私にはくれないの?』と絶対に言われてしまう」(町井さん、以下同)

「そんななかで『私ができることはこういった知識を渡すことだからね』と、そのときは納得してもらった。しかし、その後に行くと子どもは亡くなっていて。そこはもう本当にずっと悩んで、帰国しても数年抱えていた」

 どうすれば継続的に助けることができるのか?考え抜いてたどり着いたのが、日本の「置き薬」。インフラが整っていない地域でも、けがや病気の応急手当てを可能にするシステムだった。

「奥地なので近くに病院も薬局もないし、24時間開いているわけでもない。24時間目の前にあることがとても重要で、それが置き薬の良さ」

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 環境や条件を調査し、2015年にタンザニアで活動を始めると、村長の協力を得て口コミでも評判が広まった。

「仕組み化して変えていくことを考えAfriMedicoを立ち上げて、頭の中のことが現実になるというか、一歩一歩進んできたなと振り返って思う。実際にやってみて、大変だけど、やっていてよかったと思う」

 現地では蚊が媒介するマラリアや、濁った沼の水をそのまま飲料水にするなどの生活習慣から、下痢も多いという。農村部は病院や薬局が遠い上に、雨季に入ると道が冠水し、村から出られなくなる。活動を始めて7年あまりが経ち、今ではタンザニア農村部の200世帯が置き薬を利用している。

「置き薬は手元に置いていつでも薬を使えるところが良い」(置き薬の利用者)

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 日々の置き薬の補充や調査は現地で回せるように、現地の薬学部や医学部の学生、薬剤師ら約20人をスタッフとして雇用している。日本のメンバーは現在30人で、全員が学業や仕事を別に持ちながら社会貢献活動を行う「プロボノ」として働いている。理事の坪井祥太さんもその1人だ。

「職業や場所にとらわれずに自分のやりたいこと、目指したい志を純粋に追い求めていきたい」(坪井さん、以下同)

 コンサルティング会社で働き、デザインを活かした事業などを手掛けているスキルを活かし、今年8月に新たな取り組みを始めた。アフリカ発のデザインで絆創膏などを作り日本で販売、収益をアフリカの置き薬事業へ還元するプロジェクト、「TSUNAGU」だ。

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「アフリカの良さや文化はたくさんあると思っていて、それらを日本に伝えていくのも僕らがやるべきではないかと思った」

 タンザニアのこどもたちがデザインした絆創膏は、世界各国で壁画を描き続けるアーティスト、ミヤザキケンスケさんの協力で開催したワークショップで描かれた。テーマは『怪我や病気をした時に笑顔になれるもの』。マンゴーや鶏肉、ポップコーンといった、病気になると特別に食べさせてもらえるものが並ぶ。中には「置き薬」を選んだ子もいた。

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「寄付をしたいからこれを買うというよりは、そのデザイン性に惹かれて買ってみたら『実はこういう世界につながっていたんだ』『こんな学びがあったんだ』と展開していける、それが僕らの狙っていきたいところ」

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「そうするとその裾野が広がり、アフリカを全く知らない人たちにもこういう話が伝わり、そのお金がまた置き薬に戻っていく。このデザインが世界を、日本とアフリカをつないでいくと新しいサスティナブルなモデルの一つになるのでは」

 助成金や寄付が主な資金源となるAfriMedicoの課題は、活動資金の確保。より多くの人に知ってもらうために今後も模索は続く。

 そして、置き薬とともに、医療の知識を広める活動を大切にしている。スワヒリ語やピクトグラムで症状をわかりやすく解説したリーフレットの配布や紙芝居なども作成。応急手当てを自分で行えるように啓発することが長期的な支援につながる。

「置き薬は、置くだけじゃなくてセルフメディケーション。自分たちの健康を自分たちで管理できるように医療教育やお薬手帳も取り組みたい。日本の良さはたくさんある」(町井さん)

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 『ABEMAヒルズ』では、「持続可能な支援」の形について、アフリカの素材を使ったアパレルブランド『CLOUDY』のCEOで、アフリカ現地の雇用支援などにも取り組む、社会起業家の銅冶勇人氏と考えた。

━━「できることから支援」は難しい?

「現地の人々に向き合い、伝え、問題を1つ1つクリアしていくのは本当に労力が要る。しかし、これを仕組み化し、金銭的な支援だけでなく現場レベルの人が動くことが重要」

━━支援先で「お金がほしい」と言われることはよくあるのか?

「先進国からの援助が当たり前となっている現状があり、彼らが自走できていない結果だと思う。現地で何かを施せば『次は何をしてほしい』と要求が増えていく。だからこそ、彼らだけで自走できる仕組みを植え付けることが大切だ」

━━現地で雇用を作り、自走する仕組みを作ることが持続可能になる?

「1万枚のTシャツを現地に渡すと、洋服を作り、売っている人たちの仕事を奪ってしまう。物を提供することが支援だと思いがちだが、現地で何が起きていて、本当に問題が解決されているのかの追求が必要。その結果、自分たちのやるべきことが見えてくる」

━━支援を継続していくことは難しい?

「全く違う環境の人々と何かを作り出すことは容易ではない。しかし、彼らや子どもたちが描く未来に対する思いがアクションに繋がり、それが継続できるような仕組みと支援が重要だ」

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━━この絆創膏のように「『デザインにひかれて手に取ったら支援につながっていた』という形で、アフリカの現状を知ってもらう間口を広げたい」というAfriMedicoの取り組みについては?

「かわいいから欲しくなる、誰かにあげたいと思う。そういうプロダクトはどんどん広がっていく。この絆創膏をつけていたらクラスの人気者になれそうだ。その絆創膏からコミュニケーションが生まれることは素晴らしい」

━━支援活動の資金を確保し続けていくことの難しさについては?

「NPO法人は寄付を大きな資金源としているが、自分たちでお金を生み出す仕組みが重要だ。寄付をしたいと思う人は多いが、なかなか行動に移せない人もいる。そういった人が一歩踏み出せるようなきっかけ作りが大切で、イベントや商品などがそうした機会になる。まだ途上国に興味がない人の方が多い現状で、そういった人が前に出られるような仕組みは、実は全く関係のなさそうなエンターテインメント性の高い部分にあるかもしれない」

(『ABEMAヒルズ』より)

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