近年、首都圏を中心に増えていると言われている「小学校受験」。かつては、「ごく一部の特別な家庭の子どものためのもの」というイメージだったが、今では身近なものとなっている。志望校合格へ、試されるのは子どもの学力だけではないようだ。
“お受験”と言えば、私立や国立の小学校への進学を志す「一部のお金持ち」や、「有名芸能人」の子どもがするものだと思われがちだ。しかし、最近では一般家庭でも、特に共働きの家庭を中心に「小学校受験」が増えてきている。
小学校受験の情報サイト「お受験じょうほう」を運営するバレクセルの調査によると、首都圏1都4県の私立小学校72校の志願者数は年々増加している。2023年度は、4年前の2019年度と比較すると約24%増えている。この背景には何があるのだろうか。
SNSなどで小学校受験に関する情報を発信している狼侍さんによると、その原因のひとつに「中学受験」が挙げられるという。
「中学受験の過熱ぶりに、それを目の当たりにしていたり話を聞いたりして、『中学受験でこんなに苦労するぐらいなら、小・中・高、ないしは大学までの一貫校で学んだ方がいいのではないか』と考える家庭が増えてきた、というのが私の印象」(狼侍さん、以下同)
そんな中、ネットでは、情報を求めて「小学校受験」がテーマのSNSへの参加者が増え、様々なトラブルも生まれている。
「リアルタイムで合格報告をつぶやく、発信するというのが非常に多いが学校の特定に繋がってしまう」
ある投稿者がSNSで「本日、第一志望合格しました!そして先ほどもう一つの学校も受かりました!」と、子どもの志望校合格を発表した。すると、「今日発表されたのは○○小学校ね。もう一つは××小学校でしょ?」と、合格発表のタイミングから学校名が特定され、投稿者はアカウントを閉鎖することになった。
また、意図せず第三者によって個人情報がさらされてしまうケースもある。
「○○小学校に合格しました。願書を書いてくれてありがとうございます!」と、願書の添削を依頼した業者に保護者が合格の報告をしたところ、その業者は「○○小学校合格のご報告をいただきました!」と、依頼主の受験番号入りの合格通知をそのままネットに掲載し、仕事ぶりをアピールしていたという。これを見た人からは、「願書を人に書いてもらうのってアリなの?学校に連絡しときます」との反応があったようだ。
「私はむしろ(合格者の親は)被害者だと思う。個人情報が明らかになるということも今回かなり衝撃で、いい教訓になったと思う」
ますます熱を帯びてきている小学校受験。そこには、学力重視の中学受験と決定的に異なる点があるという。
「『小学校受験は親の受験』と言われるが、それは『親がサポートする受験』という要素がある。親自身も合否の対象になっている点がほかの受験と違うところだ。『家庭の教育の姿』を見られることが小学校受験の特色だ」
子どもの学力だけでなく、教育に対する親の姿勢も入学考査の重要なポイントになる。そのため、親はつい熱が入りがちになってしまう。私立小学校へ通う2児の父で「小学校受験経験者」の狼侍さんが、小学校受験の情報発信を始めた理由を教えてくれた。
「小学校受験は5~6歳の幼児の受験だ。子どもの実力だけでは決まらない世界で、親もしっかりしていかなければならないなかで、子どもへの負荷が非常に大きくなっている。『子どもだけじゃない』『親自身もきちんと考えて学ぶ受験』、そこを見失わずに(子どもへの)過度な負荷は避けてほしい」
加熱する小学校受験について慶応義塾大学の特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は、「一定の“特権”を得るために親が大変な思いをするのは自然なことだ」と考えを示す。
「合格した親は『うちの子が頑張りました』と言うが、小学校受験は完全にフェアな競争ではなく、家庭に経済的余裕がないと難しい。あえてオーバーに言うと、親のエゴから『子どもを通して特権を得たい』という気持ちは発動すると思う。とはいえ、教員の成り手不足などの課題がなかなか解決しない公立学校を見た親が子どもに“より良い環境”を与えたいと思うのは自然で、それは否定しない。ただし、子ども1人にかかる教育費も増えることで少子化も進み、親から子に対する期待も増し、小さいうちから競争が求められる」
さらに若新氏は「現在は小学校までマーケットになり、市場原理が働いている」と述べた。
「今までは経済的な事情に関係なく近所の学校に行っていたが、経済的に余裕がある家庭はより良い教育環境を選べるようになった。市場原理は資本主義なので『格差』を生む。義務教育にまで市場原理的な格差の経済力が働く時代になってしまった」
(『ABEMAヒルズ』より)
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