人生100年時代。定年を迎えてもなお企業で働き続ける人が増える中、問題視されているのが、60歳を機に給料が激減する“60歳の崖”だ。なぜこうした賃金の引き下げは生まれたのか、その問題点を専門家に聞いた。
【映像】59→60歳で100万円減!? “60歳の崖”についての調査結果
「65歳までの雇用を継続することを優先して、処遇を一定程度引き下げることについては、法律は何も禁止したりしなかった」
60歳を過ぎると給料が急激に下がる“60歳の崖”を問題視していると話すのは、労働法が専門の東京大学社会科学研究所の水町勇一郎教授。
国税庁によると、日本の年齢階層別平均給与は、55~59歳をピークに急激に下がっている。なぜ、このような“60歳の崖”は生まれたのだろうか。水町教授によると日本には年齢差別禁止法がないことに加えて、2013年に改正された「高年齢者雇用安定法」に原因があるという。これによって企業は65歳までの雇用確保措置として「65歳までの定年引き上げ」「定年制の廃止」「65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかを迫られたと指摘する。
「65歳までの『雇用継続』を優先して、その場合の処遇を一定程度引き下げることについては、法律は何も禁止しなかった。(給与引き下げで)高年齢層の働き甲斐が下がるだけではなく、若手の働き甲斐も下げると言われている。『自分たちもこの会社に残っていたら、そういうふうな取り扱いを将来受けることになる』と考えてしまい、全体の悪循環になっている」
少子高齢化や人口減少、2021年の法律の改正によって70歳までの就業機会確保が企業の努力義務に。今後はシニア人材の活用がより求められてくるなか、水町教授は「60歳の崖が崩れつつある」と述べる。
「年功給/職能給から『職務給』に変えていこうとする動きが多く見られている。人手不足の中で、高年齢層のキャリアや経験も借りないとうまく回っていかないことが認識されてきているからだ。例えば、職務とか能力に沿った給与カーブにしていけば、年齢にかかわらず、その働きぶりに見合った処遇制度になっていくのではないか。実態に合わない階段を下げることがなくなっていくし、そういう改革はまさに今行われていると思う」
また、働きながらもらうことが出来る「在職老齢年金」は、2022年3月以前まで給料と年金の合計が28万円を超えると、超えた分の年金が1部カットされてしまうため、合計額が28万円になるよう賃金を設定する企業も多かった。2023年4月以降は、その基準額が月48万円に引き上げられるなど“60歳の崖”をなだらかにする動きは加速しているという。
「人手不足が深刻なので、定年を65~70歳に伸ばして処遇は下げないまま高齢者の活用を進めている企業は多い。世界の最先端企業でも『職務給』制度にして年齢にかかわらない処遇をしていこうという方向で改革を進めている。企業の中だけでなく、外からもいい人がほしいとなっていくと、階段を作っている場合ではなくなっていく。『年齢や勤続年数に応じて賃金を上げていけば、みんな一生懸命働いてくれた』という“180度違う社会”にするにはどうすればいいのかが、問われているのではないか」
(『ABEMAヒルズ』より)
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