【写真・画像】トラウマは乗り越えるべき? 「命を守るために逃げようと…」「心の傷を受け入れることが必要」当事者語る葛藤と精神科医のケアの基本 1枚目
【映像】医師が解説するトラウマのメカニズム
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 誰もが目を背けたいトラウマ。厚生労働省科学研究資料によると、日本人の6割が生涯で少なくとも1回以上は体験しているという。

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 そうしたなかで「トラウマは心の資源」と題した記事が話題となっている。より良い人生の糧になるという趣旨だが、ネットでは「乗り越えないと何も変わらない」「いい経験だったと思える日が来るさ」といった意見の一方「向き合ったら余計辛くなる」「それでも生きていけるし、向き合うことって必要?」など賛否両論の声があがっている。

 トラウマは向き合うべき、乗り越えるべきものなのか? 『ABEMA Prime』では、専門家と当事者を交えて考えた。

目を背けたい葛藤

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 職場のパワハラによるトラウマが心の傷に残るナナさんは、「自分だけが女性のリーダー職だった。上司や同僚・部下は全員男性で、上司から毎日大きい声でダメ出しをされ、年上の部下は基本的に私の指示を無視、“リーダーに向いていない”など私の評価を下げる言動を受ける環境で働いていた」と明かした。

 当初は向き合おうと努力したが、「体が動かなくなってしまい、会社に行こうと思うと涙が止まらず、点滴を打たないと胃が消化をしない。命を守るためにも逃げようと思って…」という状況に追い込まれ、休職。その後、妊娠や出産などのタイミングがあったこともあり、職場から離れたという。

 しかし、「男性が大きな声で罵倒する状況は今も対処が難しい。誰かがクレームを言っている、電車内で怒っている、通勤時に上司が部下に怒鳴っているなどの現場を目撃した時は、その場から離れる。体がビクっとなり逃げるとことを繰り返している」と、心の傷は残ったままだ。

 そして、「他の社員も同じようなコミュニケーションをとっていたのかもしれない。自分だけだったか記憶が曖昧な部分もある。ただ、当時は私だけがいじめられていると思っていた」と語る。当時のこと誰にも明かしていないという。

専門家「共に生きていくことがケアの基本」

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 紛争地や被災地などで人の心に向き合う精神科医の桑山紀彦氏は、「トラウマの経験をなかったことにするのではなく、“これが私なのだ”と思えること。白紙に戻すために向き合う必要はない。その状態を受け入れて、資源にしていくことがケアの根本になる」と述べた。

 性被害のようなトラウマのレベルが高いもの対しては、「ある程度は落ち着いた時間が必要。その後に傷ついた心を自分なりの形で誰かに伝えたいという欲望が出てくる。それを社会が受け止めてあげる。時間と社会が大切だ。そこからトラウマとの向き合いが始まる」との見方を示した。

 桑山医師は、「ナナさんの例では日常生活に支障をきたしている。それは人生を狭めることになるので向き合う必要がある」と言うが、具体的にどのようにするべきなのか。

 「トラウマは記憶と感情の病だと世界的に言われている。その記憶を自分なりに整理して付随する感情をくっつけながら、自分らしいトラウマの物語を作ることがひとつの方向性。ナナさんも静かにゆっくりと誰かをパートナーにしながら進めていけば、必ず物語はでき、それが一つの到達点になる」と説明する。

 向き合う=乗り越えるとイメージしがちだが、そうではなく“共に生きていく”ことがケアの基本。トラウマを解消して元気になることは「目指さない」という。

 例えば、性被害では異性が怖いという精神状態になることもある。そうした場合は「性被害を自分なりに受け入れ、誰か好きな人ができた時に話す。内緒にしてその人と関係を築くのではなく、オープンにして関係を築き直すことが“向き合い”になる。トラウマは刻印。ついた傷なので受け入れることが必要。それは決して逃げていることにはならない」との見方を示した。

 また桑山医師は、当事者に対して周囲が確認すべき症状として3点をあげた。1つ目は“侵入症状”の有無。悪夢やフラッシュバックがあるかどうか。2つ目は“回避症状”で、例えば津波の被害を受けた場合に海へ行けなくなるなどトラウマとなった出来事を避けていないか。そして3つ目は“過覚醒”と呼ばれ、常にドキドキしたり、汗をかきやすかったり、眠りにくいなどがあるかどうか。周囲にいる人はこの3つの症状を「聞いてみてほしい」と説明。

 なかでも「一番特徴的なのは悪夢とフラッシュバック。これがある時はトラウマと定義してどこかで向き合っていくきっかけを得た方がいい。そうした接し方をしてほしい」と指摘した。

「向き合うことが正義と思いたくない」との意見も

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 議論を踏まえ、経済的に苦しい幼少期を送り、「今も働いていないと不安に駆られる」と明かしたタレントのあおちゃんぺは、「向き合う時にかかるストレスと、放置してそのまま生きていくストレス、どちらが自分にとって辛いか。それを考えて選択をしていけばいい。私は働いて結果を出すことが自己肯定に繋がっている。だから、向き合うことが正義と思いたくない。他の方法もある」と話す。

 続けて「誰にも話せない状況になるのがトラウマ。人間関係でトラウマを受けると、“話を聞くよ”と言われても、“自分を貶めようとしているのではないか”と信じられないから話せない。なので私は家族にも友達にも言えないことがたくさんある。話せるようになるにはどうしたらいいのか?」と質問した。

 これに桑山医師は「話すことだけがトラウマとの向き合い方ではないので、自分なりのツールを見つけるといいのかもしれない。一方通行のツールでもいい。例えば本を書くこともトラウマと向き合うことだ」と答え、「社会にはトラウマを受けた人に対して、優しくそれを聞き出すような土壌を作ってほしい。日本人の6割にトラウマがあるとしたら、それは日常的なこと。傷ついた人を別世界の人間と考えるのではなく、それを受け止める社会になればナナさんが今まで語れなかったことも話せるようになってくる」と答えた。

 ナナさんは、「やはり、この人と一緒になりたいという次の未来が見えた時に克服のタイミングが来て、その時に話せるのかもしれない。信頼できる人がいてタイミングとチャンスが重なった時に向き合うことができると思う」と語った。

(『ABEMA Prime』より)

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