学業や芸術など、“特定分野に特異な才能のある児童生徒”を指す「ギフテッド」。発達障がいなどを併せ持ち「生きづらさ」を感じている人もいることから、国も2023年度から支援を始めている“ギフテッド教育”について、「自分はやり方を間違えた」と振り返る実践者がその難しさを指摘する。
東京・中野区にあるNPO法人 翔和学園の中村朋彦さんは、「発達のデコボコの尖っている部分に注目した教育をしようということで、ギフテッド教育を始めた」と話す。
翔和学園では、発達障がいや不登校など、生きづらさを抱える若者たちに対する特別支援教育を実施。2015年に、高いIQと発達障がいを併せ持つ子どもたちについての問い合わせが増えたことをきっかけに「アカデミックギフテッドクラス」を設置した。
「IQが130以上であることを目安にし、かつ理数系に強い関心がある子どもたちを対象にした。そして、研究テーマについて作文を書いてもらったり、書くのが苦手な場合は語ってもらったりして審査した」(中村さん、以下同)
様々な専門家を外部から講師として招くなど、各々の才能を伸ばすための支援を行った中村さん。しかし、その取り組みについて「大失敗だったと思う」と振り返る。「このやり方はうまくいかない」と、わずか3年でこのクラスを廃止した理由は何だったのか。
「私たちがIQや学力というような、いわゆる認知能力、テストで測れる力にばかり注目してしまったというのも一つ大失敗だったと思う。もう一つは、基礎学力をおろそかにしたところ。基礎的なところを少しおろそかにしたという部分と、“努力する力”とか、“他者と協調して力を合わせる”という、いわゆる非認知能力をきちんと育てられなかった」
発達にデコボコがあるというギフテッドの子どもたち。その優れている部分を伸ばそうとし過ぎたあまり、基礎的な学力がおろそかになってしまったという。
「小3~4ぐらいまではそれでも結構いい成績が取れたりするが、高学年になってくると努力して勉強している子たちにどんどん追い抜かれていく。そこで努力をするのではなく、『いや、別に僕はこれをやらなくてもいいんだ』と、努力をしない選択をさせてしまった。そうしているうちに、努力することとか、協力して問題を解決する力を身に付けられないまま、子どもたちを育てていくことになってしまった」
記憶力が非常に高いと言われるギフテッドの子どもたちは、ネットで得た知識などをスラスラと話せる一方、土台となる基礎的な知識や理論は身に付けさせることができなかった。
「当時、様々な専門家の方に来てもらった。『このレベルではなかなか天才とは言えないよ』とか。学術的な基礎知識や理論体系をきちっと踏まえて積み上げていかないと『なかなか研究レベルでは通用しないんだよな』と(指摘もあった)」
外部の専門家からも、「まだ小中学生であることを考慮すべき」といったアドバイスを受け、2018年、「アカデミックギフテッドクラス」はわずか3年で廃止となった。
「決して彼らの能力が低かったとか、ギフテッドじゃなかったということではなく、私たちが提供したプログラムが彼らとミスマッチだった。その証拠に、悔しいが在学当時よりも今の方が生き生きと過ごしている子もたくさんいる。そういう意味では本当に大人の失敗だったなと思う」
現在はIQに関係なく、様々な特性を持つ生徒が同じクラスに在籍している。それぞれにあった、個別最適な学びの提供だけではなく、他者と協力する力や人の助言を素直に聞く力といった、社会に出てから求められる力を育んでいると中村さんは話す。
「例えばこの3年ぐらいの成果で言うと、ペットボトルの水ロケットでギネス記録を取ることができた。そのプロジェクトの中で色々な子どもたちが活躍した。(ギフテッドの子どもだけでなく)重度の知的障がいを伴うダウン症の若者も、自閉症の若者も活躍した」
今後、ますます注目が集まる“ギフテッド教育”だが、才能を伸ばすために求められる教育の在り方とは何だろうか。失敗を糧に、中村さんはこう話す。
「その人なりの能力を活かして、その人が一番嬉しい人の喜ばせ方を追求、実現する。これが今の目標だ。イノベーションというような文脈でこの目標を語るなら、ある種、勝者がすべてを総取りするような成功ではなく、本当に社会全体を良くしていくような形での社会的な成功に貢献できるような若者、そういうことに喜びを感じる若者を育てたい」
中村さんらの取り組みについて、慶応義塾大学の特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は、「『やってみたけどこれは失敗だった』と言えるのは素晴らしい」と話す。
「すぐには答えがわからないような、非常に難易度が高い次元のことを模索されていると思う。子どもたちの人生が関わる問題に『失敗だった』とは言いづらいと思う。だから皆その実験に踏み込めないし、上手くいかなかったことの中に大事なデータがあったとしても、なかなか公表しづらいと思う。そこで勇気を持って『結果を活かして前に進みませんか』と堂々と話す中村さんの姿勢にすごく感銘を受けた」
「もう1つ。一時、『人と発達の違いがある子の中には天才がいる』みたいなことが言われすぎたと思う。必ずしも発達の特殊性を持っているからといって、僕らが知っている世界で何かすごく良い成績が取れるとは限らないが、異色の何かを持っている可能性はある。人とは違う角度で物を作れる場合があって、それを何かと組み合わせるとおもしろいものになることもあると思う。ギフテット単体ですごい力を発揮するとは限らないが、平均的な集団の会議の中に1人入れると、まわりが刺激され新しいアイデアが出るなど、いい組み合わせになるかもしれない。人との違いの活かし方を僕らが柔軟に捉える必要があることを示唆させた」
「すぐに優劣で評価せずに、おもしろいかどうかの評価軸が大事だと思う。学校生活の中で『大変よくできました』はあるけれど、『それおもしろい』ということはあまりなかった。価値があるか、点数がもらえるかわからないけど『おもしろいね』というものがもう少し大切にされて、ちゃんと物事ができるけどおもしろさが足りないところに加わると、スパイスになる可能性がある」
「僕らは学校では単体で評価されないといけなかったが、仕事はチームでできる。ギフテッドと言われる子どもたちの才能も、その子が持っていない他の人の才能を組み合わせると上手くいく場合もあるだろう。そういう柔軟性というかおもしろさを評価できる社会が必要だと思う」
(『ABEMAヒルズ』より)
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