16日、法制審議会(法務大臣の諮問機関)の部会が、いわゆる“マンション法”の改正要綱案を取りまとめた。
建て替えに必要な要件を緩和する内容などが盛り込まれ、1970年頃に大量に建設・供給された分譲マンションや団地が老朽化する中、改正法案が成立すればおよそ20年ぶりの大規模改正となる。
一昨年の時点で126万戸あった築40年以上の分譲マンションは、今から20年後には3.5倍へ急増する見込み。建て替えには所有者の集会で5分の4(80%)の賛成が必要だが、住民は高齢化し、相続のタイミングで不明となった所有者や無関心な住民が集会を欠席することも多い。こうした欠席者は反対票扱いとなるため、建て替えは困難を極める。
そこで改正案では、耐震性や耐火性に問題がある場合、欠席者を決議の分母に含まず、必要な賛成の数を4分の3(75%)に緩和。法務省は26日から開かれる通常国会での法案提出を目指しているが、果たしてマンションの老朽化は解決できるのか。23日の『ABEMA Prime』では専門家を招き考えた。
築40年超の半数が70歳以上、タワマンも築20年超が増加
マンション管理コンサルタントの菅純一郎氏(KAIライフサイクルマネジメント代表)は老朽化した建物について、「大規模修繕を2回ほど経験した築40年超のマンションで次に起こるのは、給排水の配管など設備のトラブル。漏水が起きれば下階の住戸、ご近所づきあいに影響が出るケースもある」「もう一つは、2000年前後にはインターネットが普及していなかったように、たった20年で社会インフラは変わる。40年前の建物は社会的な設備としての要求に応えられない問題も起きてくる」と2つの懸念をあげる。
また、「最近は、エレベーターメーカーのモデルが代替わりし、古い部品の供給がない問題も出てきている。仕方なく修理ではなく新品への交換を決めても“今発注したら交換は2年後です”というのが実態。資金を用意したのに替えたくても替えられない状況だ」と実態を明かした。
住民の高齢化も問題だ。菅氏は「10年ほど前にコンサルをした300戸ほどのマンションは築43年ほどで、入居者の多くは70歳を超えていた。排水配管を替える件で携わったが、3年間に孤独死が2件あり、総会を開こうにも過半数の委任状が集まらず大騒ぎになった」と言及。
高齢のため書類の持参が身体的に難しい、そもそも認知できていないなどの実情があり、「自分は所有者ではなく誰が所有者になっているのかわからないという話まであった」という。菅氏は「今後は物理的なハードの劣化より厳しい状況が起こり得る」と警鐘を鳴らす。
一方、築20年以上の物件が増加するタワーマンションにも固有の問題がある。
菅氏は自身もタワーマンションの理事会や修繕委員会を運営している経験を踏まえ、「世帯数が多いため住民間のコミュニケーションが極めて取りにくく、管理に対して無関心になりがち。ある物件では“最近大きな地震があったので災害時の対応を考えたい”と提案をしたものの人が集まらず、避難経路の確保や訓練方法も策定できないという話があった」と述べた。
建て替えに必要な賛成5%減でも「非常にハードルが高い」
今回の改正要綱案では、総会出席者のうち75%の賛成があれば建て替えができるように条件が緩和される見通し。ただ、この5%の差について、菅氏は「建て替え自体のハードルは非常に高い。割合を下げたからといって一朝一夕に問題が解決するわけではない」との見方を示した。従来と比べれば建て替え手続きはしやすくなるものの、「今まで関わったケースを踏まえると、建て替えの着工まで10年はかかる」点も大きな理由のひとつだ。
なぜ、これほど期間を要するのか? 菅氏によると、最初の合意形成が極めて難しく、建て替えが必要となる築40年以上の建物は、住人の思い入れも強いことから「感情論として合意できないケースがたくさんある」などの背景をあげる。
「私が関わった事例でも“建て替えても自分はもうこの世にいないから”“子どもが生まれる前に主人が買ってくれたマンションを捨てるわけにはいかない”といったご老人の声を聞いた。法的な手順を踏んだからといってこれを一刀両断するのは難しい」と述べた。
しかし、それでも国が法改正を目指す背景には、1962年に制定された区分所有法では、建て替え時に100%の賛成が必要だったところから、1983年の改正で現行の5分の4(80%)へと緩和された経緯もある。
さらに、建て替えが難しいとなれば老朽化したマンションの耐久性も気になるが、旧耐震の建物は耐震補強を行わないと大規模なリノベーションを行えない問題もある。菅氏は「コンクリート造なので、海外では100年前のものを使っている例もある。問題は社会的なインフラとしての要求度に対応できるか。今どきインターネットを使えないマンションはあり得ないだろう。こうした部分をどうフォローアップできるかが課題だ」と指摘した。
今が売り時?良いマンションの見極め方は
菅氏によると、「金融的な視点で見ると不動産は今が売り時。かなり加熱している状況なので、経済的には今、売るのが一番良い」とのこと。
一方で「今居住しているタワマンはコミュニティが活発で、子どもも多い。今はこども会がないけれど、大人の住人が自治会として動いてくれるので、クリスマスやハロウィンなど子ども向けのイベントもある。これも住まいとしてはすばらしい環境だ」と、お金とは別の価値に言及した。
菅氏は良いマンションの見極め方について「プールやジムの有無など共用部の施設の充実さを見る人は多いが、分譲の場合、これらの維持には月何万円という管理費がかかる。また、朝の8時〜10時、午後2時〜4時くらいの間にエントランスを覗くと物件の良し悪しがわかる」と指摘。
その理由を「この時間帯は、保育園や幼稚園・学校に出かけて帰宅するタイミング。子どもたちがどう生活しているか、コミュニティの実態が見える。資産価値の高いマンションは、他人が見ても良い物件だ」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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