危機的な事態が迫った時に冷静に判断して動ける人は全体の10%程度しかいないと言われ、多くの人は思考停止のような状態になってしまう。また、災害後の心の変化の変遷においても「ハネムーン期」や「幻滅期」など注意が必要な時期があるという。
我々は突然災害に巻き込まれてしまった時にどのような心持ちで過ごすべきなのか? また支援する際に心がけるべき視点とは? 明星大学心理学部教授で臨床心理士/公認心理師の藤井靖氏に聞いた。
⚫︎「備えておくべき災害心理1 フリーズ(凍りつき)」
「心理学には10-80-10理論というものがある。危機的な事態が迫った時に冷静に判断して動ける人は全体の10%程度しかおらず、残りの10%はパニックに陥り、80%は凍りついて思考停止のような状態になってしまう。人は新しい場面に接した時に、いろいろな考えが溢れ整理できなくなったり、思考停止に陥りやすいため、経験者の方の話を聞くなどして自分の中でイメージしておくことで“1回目にしない”ことが重要だ」
⚫︎「備えておくべき災害心理2 ターンバック」(引き返し)」
「東日本大震災の時も一度避難をした後に『忘れ物をした』『あの人が心配だから確認しよう』などと引き返したことで命を失ってしまったケースもあった。辺りの様子を見に行ったり、スマホで動画や写真を撮りたくなる人もいる。やはり逃げるときは一方通行で、逃げ始めたら戻らないことが大事だ」
⚫︎「備えておくべき災害心理3 バイアス(大丈夫orみんな一緒)」
「根拠なく『これくらい大したことない』と考えてしまう“正常性バイアス”、あるいは、みんなと同じ行動をとっていれば大丈夫という『同調』には注意が必要だ。『率先避難者』という言葉があるが、『自分が1番に逃げるんだ』というくらいの気持ちでまずは逃げ、『他の人と協力し助け合うのは避難所に着いてから』という考え方でいるべき」
「震災後の心の変化」について藤井氏は「今は『茫然自失期』にあたるが次に来るのが『ハネムーン期』だ。人はストレスがかかると『元に戻ろう』というある種の回復力を発揮するが、支援や報道が集中して被災者同士を含めて連帯感が生まれ気持ちが高ぶって『これから復興に向けて頑張っていこう』という暖かいムードを伴った心理状態になっていく」と説明した。
さらに藤井氏は「ハネムーン期の後の幻滅期に注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。
「このあと数カ月経つと、人々の注目・報道・ボランティアが減り、高揚した感覚・頑張ろうという気持ちの減退が起こる。忍耐が限界に達したり、不満が溢れたり、疲れや反動がきてトラブルも起こりやすくなる。この頃には被災者の生活状況の個人差も大きくなり,連帯感も失われる。このギャップが人によっては被災直後より大きくなる。そのため、支援は長期的な視点で行われるべきなのだ」
藤井氏は「年単位で見ると心理面での回復は二極化する」と説明した。
「例えば仮設住宅への引越し、仕事・家族との暮らしなど立て直しがスムーズに進む人もいれば、『もう戻れない…』となってしまう人もいる。支援体制が行き届かず、心理的に取り残される人は必ず出てくることを踏まえるべきだ。この場合多くは、自分から積極的に助けを求められない。そのため、年単位の長い視点でその時々の被災者の方のニーズをきちんと見て、聞いて、分析をして、そして孤立しないように繋がり続けることが必要だ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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