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 昨年10月から日本で放送開始となった世界最大のプロレス団体WWE。1月28日放送の「ロイヤルランブル2024」から実況解説を一新し、プロレスリング・ノア中継などでもおなじみ、塩野潤二アナウンサーも実況に加わることなった。これまでさまざまなプロレス団体の実況にも携わった塩野アナに、日本のプロレスとの違いやWWE独自の魅力、そして自身のWWE愛を語ってもらった。

取材・文/堀江ガンツ

——1月28日の「ロイヤルランブル2024」からWWEの実況を担当することになった今の気持ちはいかがですか?

塩野 正直、本当にうれしいですよ。ぼく自身、WWEのファンですし、プロレス界のメジャーリーグで世界最高峰の団体ですからね。これまでぼくがプロレスの実況をやってきた集大成という気持ちがあります。

――塩野さんがWWEを観始めたのはいつ頃からなんですか?

塩野 ’80年代の「WWF」時代からです。小学生の頃プロレスブームが起こって、クラスの男子全員が見ていたんですよ。その時、ぼくはハルク・ホーガンのファンで、第1回IWGP決勝戦(’83年)でアントニオ猪木さんがホーガンのアックスボンバーで失神させられた時も、ぼくはホーガンを応援してましたから(笑)。

――のちにアメリカンプロレスの魅力にハマる原点がそこなのかもしれないですね(笑)。

塩野 その後、ホーガンはアイアン・シークからWWFヘビー級王座を獲得して日本になかなか来なくなっちゃったので、そこからWWFを見始めたんです。当時、テレビ東京のゴールデンタイムに放送していた『世界のプロレス』という番組でWWFが見られたので、それを見て。その後は初期「レッスルマニア」を中心にレンタルビデオで見ていましたね。

——「レッスルマニア」や「サマースラム」は当時から、VHSビデオのレンタルで見られたんですよね。

塩野 ’90年代はしばらく見ない時期もあったんですけど、ザ・ロックとスティーブ・オースチンの時代になってCSで見られるようになったのでまた見てみたら「WWEはおもしろい!」となって、そこから再び本格的に見始めた感じですね。

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■初めての現地観戦はザ・ロックvsハルク・ホーガン「レッスルマニア18」(2002年)

――その当時、すでにアナウンサーにはなられていたんですか?

塩野 なってました。だからプロレスの実況も始めるにあたり、プロレスがどういうものかを知るために「本場アメリカのプロレスも見ておかなければ」という思いから、ザ・ロックvsハルク・ホーガンの「レッスルマニア18」(2002年)を現地まで見に行ったんです。

――あの歴史的な一戦「アイコン vs アイコン」を生で観てるんですか!

塩野 ロックvsホーガンはもちろん、WWEのすべてに感銘を受けて、そこからぼくのプロレス観が変わりましたね。それまで’80年代の新日本プロレスがいちばん好きだったんですけど、「本来のプロレスはこっちなのかもしれない」って思ったんです。

――プロレスの本質をWWEに感じた、と。

塩野 そんな感じです。大会場でも目立つ選手って、動きが大きいんですよ。また、試合内容は大味なのかと思ったら、見せ方をしっかりと考えた緻密なものなんだなと気がついて。これが本質なんだとしたら、子供の頃に見ていたジャイアント馬場さんの全日本プロレスも、「なるほど。だから、ああいう試合だったんだ」と理解できるようになったんです。それがぼくの実況アナウンサーとしての指針となり、のちにプロレスリング・ノアの実況をやるのにもすごく活きました。だから「レッスルマニア」を生で見たことは、自分にとって大きな経験でしたね。

――しかも、ロックvsホーガンを見てしまったわけですもんね。

塩野 あんなシチュエーションは最初で最後だと思うんですよ。’80年代から’90年代の象徴であるホーガンと、その時点で最高のスーパースターだったロックの対戦。あのとき驚いたのは、会場のお客さんが空気を変えて、ストーリーをも変えてしまったんです。

――ロックがベビーフェイスで、ホーガンがヒールという構図だったはずが、声援がホーガンに集中したんですよね。

塩野 そうなんです。あの試合は人気絶頂のロックが、悪党としてWWEに戻ってきたかつての大スターを倒してレジェンド超えをするシチュエーションのはずなのに、会場の空気がおかしいんですよ。ホーガンがどんなに悪いことをしても歓声が集まり、逆にロックに大ブーイングが飛んだ。お客さんが設定をひっくり返しちゃったんです。

――ファンが、自分たちの子供の頃からのヒーローだったホーガンに感情移入しちゃったんですね。

塩野 その時、さすがだなと思ったのは、最初は善玉的な振る舞いをしていたロックがヒール的になっていき、ホーガンはnWoの悪党からかつての「ハルカマニア」になっていった。それでも最後はしっかりとホーガン超えを果たしたロックの、試合後のほっとしたような顔が忘れられないですよ。

――現在ハリウッドスターであるロックが、ハリウッド映画ではありえないことに直面したとき、プロレスラーとして最高の対応力を見せたわけですね。

塩野 だからWWEは完璧にプロデュースされたスポーツエンターテインメントでありながら、ヒーローはファンが作り上げるところがすごいと思います。WWEはファンの声をちゃんと優先するところも素晴らしい。今だったらLAナイトがそうじゃないですか。彼も苦労人で、他団体から出戻りでWWEのメインロースターに上がった時点ですでに40歳。ここからトップのポジションに行くのは難しいかと思われたのが、ファンの後押しがあるからということで、押し上げましたよね。

――そして1月28日の「ロイヤルランブル」では、ローマン・レインズ、ランディ・オートン、AJスタイルというすごいメンバーの中に入って、統一WWEユニバーサル王座4WAY戦を行うわけですからね。まさに現代のアメリカンドリームという。

塩野 かつてのザ・ロックもファンが押し上げたスーパースターですから、今後、LAナイトがどこまで上り詰めるかに注目してますね。

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■WWEは今日からでも楽しめる「連続ドラマ」

――そんなWWEを実況するのは、これまでの日本のプロレスとはやはり違ってきますか?

塩野 もう全然違いますね。日本のプロレス番組は「スポーツ中継」なので、競技としての動きを見逃すことなく語るんですけど、WWEの場合は「連続ドラマ」という側面が強い。ストーリーが最も大事で、実況や解説は物語の語り部、ストーリーテラーの役割が求められる。そこが大きな違いで、WWEの難しさであり、やりがいのあるところですね。

――ではWWEの実況は、塩野さんにとっても新たなチャレンジなわけですね。

塩野 WWEの試合を即日、日本で実況・解説をつけて毎週放送するということ自体、初めてなわけじゃないですか。ぼくもアナウンサーである以前にWWEファンなので、CSで放送されていた時代は、マイケル・コールとJR(ジム・ロス)の掛け合いを字幕で楽しんでいたし、その形で見たいというファンの気持ちもわかるんです。

 でも、即日放送では字幕が間に合わないという事情もあり、オリジナルの実況をつけることになったので、新しい日本におけるWWEの放送を作っていこうと思っていますし、そのためには何を言われてもいい覚悟はできています。そういう中で、なるべくWWEの現地そのままの世界を壊さず、ぼくのWWE愛が滲み出るような放送になればいいなって思いますね。

――日本のプロレスやスポーツ中継を見ている人が入りやすく、なおかつWWEの魅力が伝わる放送ですね。

塩野 やっぱり大事なのは「わかりやすく」というのが世界共通だと思うんですよ。いくらストーリー重視といっても、選手の情報をしっかりと伝え、リングで起こっていることを丁寧に伝える。それは変わらないです。またWWEって連続ドラマではありますけど、今日から見始めても楽しめるんですよ。だから初めての人にもわかりやすい放送にしたいし、WWEの会場には子供たちがたくさんいますよね。ということは、子供が見ても楽しめるエンターテインメントなんです。だからマニアからビギナーまで、大人から子供まで楽しめる放送をしていきたいと思っています。これまでWWEを観たことがない方も、これを機にぜひ観ていただきたいですね。

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