5日、警察庁は殺人事件などの犯罪被害者や遺族に対して支給される給付金の最低額を、現在の320万円から1000万円に引き上げる案などをまとめた。
現行制度では被害者の年齢や直近の収入などを基準に支給額が決まるため、子どもや低所得者は額が低く抑えられている。制度見直しを訴えてきた新全国犯罪被害者の会(新あすの会)副代表幹事の假谷実氏は「今、困っている被害者をどう救うかに軸足を置いているので大いに評価しているが、(改正施行前の適用の)遡及も課題なので合わせてお願いしたい」と述べた。
被害者救済が前進する一方、加害者、特に死刑囚の人権については物議も。先月、京都地裁で京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司被告に死刑が言い渡された。弁護側は判決を受け控訴しているが、Xでは「普通に考えたら死刑確定なのに、もどかしい」「拘置所で何不自由なく過ごしているのか」「人を殺しといて…死刑囚に人権なんてない」といった声もあがっている。
死刑囚にどこまで人権を保証すべきなのか。また、被害者への補償は一歩進んだと言えるのか。『ABEMA Prime』では被害者遺族、弁護士、元刑務官を招き考えた。
「遺族給付金」大幅引き上げの意義は
オウム真理教による公証役場事務長監禁致死事件で父を亡くした、假谷氏は「今までは年齢が若い、その時に失職していたなどの理由で支給額が低い事例が多くあった。その基準を見直してほしいと要望してきたなかで、320万円が1000万円に上がる目処が立った」と経緯を説明した。
新あすの会事務局長で弁護士の米田龍玄氏は「例えば、2008年の秋葉原通り魔事件に関しては、車で人をはねた場合は自賠責保険の対象となるため約7000万円が保険で支払われた。しかし、車から降りてナイフで殺された場合、犯罪被害者給付金(犯給金)が対象となり320万円が上限となる。差は歴然だ。私自身さまざまな遺族の代理をした経験では、320万円の上限額で張りついてしまう事例が多い」と指摘。
「この差を解消すべく我々は加害者に対する損害賠償請求権を国に買い取ってほしいと言ってきたが、そこには至っていない。ただ、320万円という非常に低い金額で抑えられている現状を早期に解消する意味で暫定的に1000万円まで上げる話なので評価はしている。まだ差は開いているので解消しなくてはならない」と述べた。
死刑執行の場に立ち会った経験を持つ、元刑務官の坂本敏夫氏も「死刑囚になるのは殺人犯の1%未満。つまり99%は懲役刑で、刑務官の人件費も含めると犯罪加害者に使われる金額は莫大だ。また、犯給金の320万円をもらうのは大変で、殺人事件でも50万〜100万円というケースがざらにあると聞く。やはり、国が買い上げて補償する制度が一番だ。受刑者は刑務作業を義務化されていて収入があるので国が天引きすれば良い。それで被害者補償の資金を捻出する制度を作るべき。以前より現場の刑務官から出ている話だがなかなか実現しない」と訴えた。
実際、新あすの会の試算によると、犯罪被害給付が年間総額で約10億円なのに対し、加害者に関する予算は総額約2600億円かかっており、被害者救済が充分でない現実が見て取れる。
死刑囚に「人権」どこまで
加害者側の問題に目を移すと、京アニ事件の青菜青葉被告は京都地裁での死刑判決後に控訴しているが、この事件をきっかけに、確定死刑囚のけがや病気の治療に関してX上などで疑問の声もあがっている。死刑囚の人権はどこまで保証されるべきか。
坂本元刑務官は「実際に医療を受けるかどうかとは別の話だが…」と断ったうえで、「栃木の黒羽刑務所にいた当時、宇都宮で6人の女性が宝石店で殺された事件があった。犯人はガソリンを撒いて自らもやけどを負い、治療費が約1000万円かかった。刑務官が被告の車椅子を丁寧に押して出廷した様子を見て、ご遺族は悔し涙を流していた。だから、死刑囚に一般の人々と同じ人権があるとは思えない部分もある」と複雑な胸中を明かした。
米田弁護士は「死刑は命を奪う刑罰だが、病気でもがき苦しんで死ぬ刑罰ではない。判決が想定している罰よりも重くなってしまう。だから治療は致し方ない」との見方を示した。
一方、殺人事件の被害者遺族でもある假谷氏は「加害者であっても人権はあるべき」としたうえで、「あとはルールの話だ。現行法では死刑は判決確定から6カ月以内に執行しなければならない。刑が決まったら淡々と執行してもらいたい。父が殺された事件では執行が半年を超えていて遅かった。もっと早ければ治療費の議論にならないはずだ」と述べた。
そして、冷静に語る傍ら「父と同じ思いをして死んでもらいたいとも思う。殺された側にとっては単純な絞首刑ではない。こうした思い、被害の回復に対してあまりにも国の支援が乏しく、被害者は切ない思いをしている現状も理解してほしい」との本音も覗かせた。
死刑に関する法律と被害者遺族の“思い”
假谷氏が言及したとおり、死刑執行に関しては刑事訴訟法の第475条で、「判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない」と定められている。しかし、平均でも約7年9か月、最長で約18年かかった執行例もあり、この間に病気等で治療費が生じるケースもある。
また、坂本元刑務官は「刑務所の監視カメラを“人権侵害だ”と言い、死刑囚が国に賠償を請求した例がある。設置の目的は自殺と逃走防止で、映像は一切公表していない。こうした裁判は死刑執行の延期を目的としているとも受け取れる。裁判が継続していると死刑の執行命令は出されないからだ。実際、次々に訴訟を起こす例もある」と別の論点にも言及し、「人権をどう線引きするかは非常に難しい問題だ」と指摘した。
假谷氏は「死んだ人は生きて帰らない。焼け太りは被害者遺族も望んでいないが、怪我を負った被害者は一生背負っていく。それをカバーし、今まで通りの生活ができるレベルの金額を補償して欲しい。医療行為の無償化など救済措置にはさまざまな方法がある。それを今、我々も議論している」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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