くしゃみや鼻水など当事者にとっては辛い症状をもたらす花粉症。そんな「花粉症の社会的な損失」に焦点を当てた論文が発表された。
タイトルは「INVISIBLE KILLER」(目に見えない殺人者)。神戸大学の明坂弥香助教と東京大学の重岡仁教授による論文のテーマは「花粉症と事故の関係性」だ。これまで、その症状や対策ばかりに目が向きがちだった花粉症が、どれだけ社会に損失を与えているのかという点に焦点を当てた研究だ。
くしゃみや鼻水、目のかゆみなど、注意が散漫になる症状をもたらす花粉症。明坂助教らは、花粉飛散量の増加が事故の発生数に与える影響を測定し、花粉症による損失の大きさを評価。すると、花粉の飛散量に伴い、人口当たりの事故による救急搬送数も増えていることが明らかになった。
日本耳鼻咽喉科学会が2019年に行った、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした大規模な調査では42.5%が花粉症という結果に。厚生労働省によると、花粉症を含むアレルギー性鼻炎の医療費は年間およそ4000億円にものぼると推計されている。
政府も本腰を入れ取り組み始めた花粉症対策。花粉症と事故の関係性を検証した明坂助教は、温暖化によって飛散量が増え続ければ将来的に花粉起因の事故による社会的損失額が1年あたり少なくとも236億円増加すると試算しており、こうした損失を抑えるための仕組み作りが必要になると結論付けている。
明坂助教らの研究について教育経済学を専門とする、慶應義塾大学の中室牧子教授は「これだけ大きな経済損失にもかかわらず、その対策費用が1億円では明らかに少ない」と指摘。その上で「『環境と人間の生活』の関係についての経営学の研究では『気温』の研究が嚆矢だ。この研究では温暖化による気温上昇によって『子どもの学力低下』や『紛争の増加』が生じることが明らかになった。これほどまでに環境の変化は私たちの生活に大きな影響を与えるのだ」と説明した。
さらに中室教授は「この論文にあるように花粉症はインビジブルな問題だ」と注意を促した。
「自然災害など、映像になった時に被害が分かりやすい事象は対策を講じる際も国民の合意が得やすいが、花粉症は“見えにくい”ために対策が進みにくい。そういった面でも、経済的な被害をはっきりと数値化して社会に伝えたこの研究には大きな意味がある」
中室氏は花粉症の影響について「問題は事故だけではない。疫学系の研究では、欠勤や生産性の低下で年間10日〜12 日程度の労働時間の減少が見られる。花粉症は病気とは言いづらいが、社会的にも政策的にもきちんと対策を講じるべきだ」と指摘した。
(『ABEMAヒルズ』より)
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