思わず自虐的なジョークも言いたくなるほど、追い詰められてからの大逆転だった。日本全国を8つのブロックに分けた団体戦で行われる「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」予選Bリーグ1位決定戦、中部 対 九州が3月9日に放送された。試合はフルセットの末、中部が勝利して本戦進出。スコア1-4とカド番の状態から藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)が圧巻の4連勝を果たした。ただ第7局では苦手と言われる深浦康市九段(52)に絶体絶命という局面にまで持ち込まれたことで、試合後には「みなさん帰る支度をされていたのかなと…」とこぼし、仲間たちや視聴者の笑いを誘った。
リップサービスでもなく、本当に追い詰められていた。藤井竜王・名人は第2局に登場するも、タイトル戦でも激戦を繰り広げた佐々木大地七段(28)の前に敗戦。次の出番が来た第6局は、既にチームは窮地のスコア1-4だった。カド番にして4連勝が必要という状況。第6局こそ佐藤天彦九段(36)に勝利し、まず一息ついたところではあったが、続く深浦九段との一局はとにかく苦しんだ。
相雁木から始まった将棋は、両者譲らない序盤・中盤を経由したが、深浦九段が先に抜け出し有利に。終盤に進むに連れて、さらにリードを広げられると、途中一気に形勢をひっくり返したところもあったが、瞬間的に藤井玉に詰みが生じたのではという場面まであり、持ち時間さえ豊富にあれば、さしもの藤井竜王・名人も逆転不可能というところまで来ていた。
それでも時間が切迫、さらに最後の粘りと王手ラッシュをかけていたことが功を奏したか、形勢が大きく二転三転した後、藤井竜王・名人が大逆転勝利。胸をなでおろすような一局をものにすると、そこからは安定感抜群の指し回しで白星を積み重ね、4連勝でチームを勝利に導いた。
試合後のインタビューで監督の杉本昌隆八段(55)から「本当に九州チームとの対局は苦しかった。今回も藤井竜王・名人に助けられました」と労われると、藤井竜王・名人は「途中の深浦九段戦では中盤、終盤ではっきり勝ち目のない将棋になってしまって、控室のみなさんも帰る支度をされていたのかなと思うんですけど…」とジョークを一発。横で聞いていた豊島将之九段(33)らが吹き出して笑うような微笑ましいシーンが生まれていた。
◆ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治 全国を8ブロックに分けた「地域チーム」によって競う団体戦。試合には監督とチームから選ばれた出場登録棋士の4人の計5人が参加可能。試合は5本先取の九番勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。試合は1試合以上出場する「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれ、勝った棋士は次局にも出場する。先発棋士は1人目から順に3人目まで出場し、また1人目に戻る。途中交代し試合を離れた棋士の再出場は不可。大会は2つの予選リーグに4チームずつ分かれ、変則トーナメントで2勝すると本戦進出。ベスト4となる本戦は通常のトーナメント戦。
(ABEMA/将棋チャンネルより)