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【映像】20歳の監督が抱えた葛藤とは?
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 東日本大震災から13年。当時6歳だった女の子が20歳となり、一本の映画を作った。

【映像】20歳の監督が抱えた葛藤とは?

 「震災の記憶を形として世に残したい」━━映画にかける思いに迫った。

 今月公開を目指している映画、『3月11日』。舞台は東日本大震災から13年後の2024年3月11日。福島出身で震災という過去にとらわれ悩む主人公・魁(かい)が娘の宙(そら)と共に、実家がある福島県を訪れる。

 そこで出会ったのは人生に生きる意味を見いだせずにいた高校生のちはる。かつて魁が砂浜に埋めた日記をちはるが見つけたことをきっかけに変化し始める2人の心情を描いている。

 作品の指揮をとったのは福島県伊達市出身の大学生・遠藤百華さん(20歳)。遠藤さんは6歳の時に震災を経験した。

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 「テーマは私の13年前に起こった震災という記憶に対する今の答え。いまの自分の答えを残そうと思って映画制作をしている。(あの日は小学校にいて)机に隠れていたのを覚えているが、何が起こっているのか全然分からなかった。私のところは津波も来なくて、どちらかというと被害はなかった方だ」

 遠藤さんは震災後、6年間にわたって、大阪で避難生活をおくった。時が経つにつれ、当時何が起きていたかを理解していったという。しかし、それと同時にあの日の記憶が彼女を苦しめるように。

 「普通の人だったら、2011年の3月11日から記憶が薄まっていったと思うが、私は逆に歳を重ねるごとに重く受け止めるようになった」

 転機となったのは、高校時代の文化祭。クラスで作った映像作品の監督を任されたことで遠藤さんは「表現することはこんなにも面白いことなんだ。生きる意味は今でもわからないが、夢中になれることを見つけた」と感銘を受けた。

 そして大学進学後、「『震災に対する思いとか、自分の気持ちを残したい』。その手段として一番いいのは映画だ」と思うようになったという。

 震災後に感じた不安、葛藤、そして希望。あの日の記憶を忘れることがないよう、形として残したい。こうして去年12月、映画『3月11日』の制作がスタートした。

 資金はクラウドファンディングで集め、遠藤さんは今年1月、地元である福島県で撮影を行った。演出・脚本全て我流。ありのままの自分の気持ちを表現したという。

 「私は被害がなかった方なので、どちらかと言うと “かわいそうじゃない方”の人間だ。だけど逆に言葉にしづらかった部分があった。震災が起こって、目に見える被害ももちろんあったが、人間の心に及ぼすような被害もあったことを伝えたい」

 登場人物には、それぞれ当時の自分を散りばめたという。

 震災後、生きる意味や存在意義を探し続けていた主人公、魁役を演じた宮城県出身の五十嵐諒さんは作品について「震災を経験して役者を志したということもあるので、自分にとっても今後も大切な作品・役であり続けると思う。震災を経験して心を閉ざしてしまった人とか、つらい思いをしてしまった人にも見てほしいが、実際に東北で被災していない人にとっても、あの日は特別な1日だと思うので、できるだけ多くの方々に観てほしい」と語った。

 それぞれの心に深く刻まれた3月11日。この映画が何かの原動力や、ふとしたときにあの日を思い出すきっかけになってほしいと話す遠藤さん。彼女が出した、震災の記憶に対する答えとは。

 「忘れたいと思った時もあったし、忘れちゃいけないと思った時もあったし、葛藤があった。でも離れたり、手離したりしても日記みたいに思い出せるものがあったらまた帰ってこれる。そのときの気持ちに振り返れるものがあったらいいなという意味を込めている。見た人が『もし自分が震災を経験したら、どういう風に生きてきたかな?』と想像するきっかけになったり、震災を知らない人にも何があったのかを伝え、考えるきっかけになったらいい」

 映画『3月11日』とその取り組みについて、ダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介氏は「ある調査によると、被災者の1割ほどが今も震災の体験を話すことができないと答えている。13年の時を経ても、なかなか悲しみが癒えない。それくらい重い体験で、なかには本当にもう忘れてしまいたいと思っている人もいる。一方で遠藤さんのような若い方が、葛藤を抱きながらも『でも残すべき』と一歩踏み出して、こうやって映像を撮られたことは非常に意義深いことだ」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)

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