日経平均株価が過去最高を更新した日本。そんな中、気になるのは「給料」だ。
労働組合が企業の経営側と賃上げなどを交渉する春闘の集中回答日を迎えた13日、大手企業では賃上げが相次いだ。
トヨタなど自動車メーカーからは満額回答が続出。電機メーカー各社も要求通りのベースアップとなった。そんな中、日本製鉄では要求額を超える過去最高、3万5千円のベースアップを回答。
繊維やサービス業などの労働組合で作られる「UAゼンセン」は平均で1万3509円のベアを要求していたが、多くの企業で満額回答となった。
今後ポイントとなるのは中小企業への賃上げの波及だ。13日、経済界・労働組合の代表者による「政労使会議」に出席した岸田総理は「裾野の広い賃上げのために手を尽くす」と発言した。
一方で物価の影響を考慮した「実質賃金」は今年1月の時点で22カ月連続のマイナスと物価の上昇に対し賃金の伸びが追いつかない状況が依然として続いている。
法政大学経営大学院の山田久教授はここまでの大手企業の回答について「予想を上回る高い結果が出てきている」と評価した上で、実質賃金が上がっていない状態について2つの背景を指摘した。
「賃上げには、転職と労使交渉の2つのルートがある。日本は労働市場があまり発展してこなかったため転職が多くない。もう1つの労使交渉は日本は企業内組合のため、賃上げよりも雇用を優先してきた結果、なかなか賃金が上がらなかった」
今後は実質賃金もプラスに転じる見込みはあるのだろうか?
「13日の賃上げの勢いはかなり強く、このまま中小企業にどの程度波及するかという点はあるが、物価も少し落ち着いてきている。うまくいけば実質賃金は少しだがプラスになる可能性は出てきている。とはいえ、大手は良くても中小企業はなかなか賃上げが難しく、業種などによる差もある。勤めている会社によって実質賃金がプラスかマイナスかばらつく状況にある」と述べた。
さらに、中小企業が賃上げできる可能性について山田教授は「商工会議所がとっているアンケートなどを見ると、去年よりは賃上げに前向きな企業が少しずつ増えてきている。ただ、中身を見ると業績が良くないのに人手を確保するために無理して賃上げをしているところもあり、全体に波及するまでには少し時間がかかるのが実態だろう」との見解を示した。
また、賃上げのために必要となる価格転嫁が難しい下請け企業などについては、「立場が弱いと買いたたきをされたり、代金の減額を要求される場合もまだあるようだ。公正取引委員会なども取り組みを始めているが、政策的にも対応が重要。去年11月には公正取引員会が、大手と中小が取引をする際に価格協議をしっかりやると定め、中小企業側が希望すれば協議を拒否できないことになっている。また、中小企業が賃上げできないもう1つの背景は収益性が上がらないこと。大手と違って規模が小さいと生産性を上げるために打つ手がない場合もある。例えば中小企業が連携して人材育成に取り組んだり、ブランド作りを行うような、いわば“面”としての取り組みを政策的に支えていくといった新しい発想も求められる」と提言した。
日本は株価が過去最高を記録しながら、日本のGDPは2期連続でマイナス。投資の好循環が日本経済全体に広がっていないように見えるが、賃上げによって個人消費が追い付けば、日本のGDP成長率も改善するのだろうか?
山田教授は「賃金を上げることで個人消費を増やしていくことはひとつの条件になっていくが、最終的に大事なのは生産性を上げること。賃金を上げていくと企業は収益性の高い事業をどんどん作る必要に迫られ、結果として新陳代謝が進み、生産性が上がるだろう。とはいえ、最終的に重要なのは、だんだんと人が少なくなっている中で、『企業がどれだけ人材に対して投資をするか』がこれからの大きな鍵になるだろう」と指摘した。
さらに今後、中長期の見通しについては「名目賃金については上昇局面に入っているが人手不足が深刻化しており、転職も盛んになっているため人材を確保するために賃金を上げなければならない。加えてインフレの影響もある。例えば以前は『中国で安く作る』という方法があったが現在は難しく、基本的に賃金は上がっていくだろう。とはいえ、実質賃金についてはやはり『生産性の向上』が必要になり、まだ時間がかかるとみられる」と述べた。
山田教授はこれまでとの違いとして「デフレが終わったこと」を挙げた。
「デフレが続くと例えば借金をすると負担が重くなるなどマイナス面が多いが、インフレになってくると前向きな動きが少しずつ出てくる。最終的には企業自身が生産性を上げていき、働く人たちも変化に応じて新しい技能を身につけるなどのチャレンジしていく動きがどこまで広がっていくかにかかってくる」
(『ABEMAヒルズ』より)
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