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【映像】「水槽の中にある珊瑚礁」とは?
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 「絶滅の危機にあるサンゴ礁を救いたい」という思いから生まれた最新技術で海の環境を再現し、研究を続ける企業を取材した。

【映像】「水槽の中にある珊瑚礁」とは?

 東京・文京区のとあるオフィスビルには、大きな水槽が外から見える。それは室内を彩る単なるディスプレイではない。

「水槽の中にサンゴ礁を再現している。いま絶滅の危機に立たされているサンゴを救う研究を行うため、東京のど真ん中にサンゴ礁を再現することに取り組んでいる」(イノカCEO・高倉葉太氏)

 水槽の中で飼育されているのはサンゴだ。サンゴ礁は海の森とも言われ、二酸化炭素を吸収して酸素を作り出すだけでなく、海洋生物の約25%の住み処となるなど重要な役割を担っているものの、水温の上昇などによる白化現象が起こり、絶滅が危惧されている。

 そんなサンゴを救うべく、独自に開発したIoTデバイスによる「環境移送技術」で、自然界の海の環境を水槽に再現しているという。

高倉氏は、「我々の特徴は“完全閉鎖型”といって、東京都の水道水から人工的に海水を作り、その海水のみでサンゴ礁を再現している。海のパラメーターというのを様々に分解。例えば水流や光、あとは水質。『栄養がどのくらいあるのか』『カルシウムがどれくらい溶けているのか』、あとはいろんな魚をはじめ、微生物であったり、色々なパラメーターを水槽の中で再現し、コントロールするということを行っている」と再現の方法を語る。

 この技術が、海を守るための研究につながっている。イノカはロート製薬と共同で、日焼け止めがサンゴに与える影響などを調査。自然の海の環境をそのまま水槽に再現することで、生きたサンゴや周辺の生き物に関する研究を、都内で行うことが可能になったという。

 さらに、通常は年に1度、6月にしか産卵しないサンゴを、真冬に産卵させることに成功。水槽内の季節をコントロールすることで、産卵を人為的に導いた。

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 東京大学でAIの研究を行い、2019年にイノカを設立した高倉CEO。このプロジェクトで欠かせない存在だったのが、チーフ・アクアリウム・オフィサーを務める増田直記氏だ。

 増田氏の前職は精密部品の鋳型職人で、自宅に巨大な“サンゴ水槽”を所有している。趣味のアクアリウムを突き詰めた結果、先端技術で地球環境を解決するスタートアップ、イノカに参加することになったという異色の経歴の持ち主だ。

 高倉氏は増田氏との出会いについてこう話す。

「一番最初に行ったのが、研究者とアクアリストをつなげるプラットフォームを立ち上げた。元々はビッグデータを集めて解析し、研究者に渡そうとしたが、増田にユーザーインタビューをしているときに『君たちアクアリウムのことわかってないんじゃないの?』と指摘され、『1回うちの水槽を見に来なよ』と言われ見に行き、ビッグデータじゃなく、1人1人のアクアリストの思いとか技術を社会につなげるだけでも、すごく価値があると気づき、今に至る」

 イノカは、非常に繊細で飼育が難しいサンゴを熟知する増田氏の知識と経験を活用。サンゴ飼育のノウハウをAIに学ばせ、海の環境の再現に活かしているという。

「人が『この仕事はしんどいな』『すごく大変だな』という単純作業や、ポイントポイントで『これはAIじゃないと』『AIすごいな』と思う部分などが見えてきて面白いなと思った」(増田氏)

 高倉氏は、今後もサンゴを救う手段を模索する。

「いままで沖縄に行かないとできなかった研究が、自宅や学校、普段行ってる商業施設でもできるようになるかもしれないというのは大きい。あとは小さくてまだ海に行くのが危ないような子どもが、小さい頃から海に触れて親しみを持って興味を持ってくれるかもしれない。これまで海の研究は海の近くに住んでいる一部の人に開かれてたものが、より市民権を得て、誰でも海や水の“自然の研究”ができるようになる。そんなきっかけを模索している」

 自然界の海を水槽に再現したイノカの挑戦について、ダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介氏は「非常に興味深い技術で可能性を感じる。例えばマイクロプラスチック汚染の対策を考える際に、実際に海にばら撒いて調査するわけにはいかないが、『疑似的な海』を水槽の中に作り出せば検証も可能だ。また、サンゴ以外にも、たとえばウナギなど養殖が難しい生き物に対してパラメーターを調整して最適な環境が作り出せれば、養殖を飛躍的に伸ばすことができるようになるかもしれない」と今後の広がりに期待を示した。

「サンゴを相手にした職人技のような属人化された暗黙知が、うまくAIで可視化されて定量的に把握できるようになると、作業がより効率的にできて、仕事が広がるのではないか」

(『ABEMAヒルズ』より)

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