今、アメリカの大学で「共通テスト」が再開され始めている。コロナ禍で共通テストの点数提出が“義務”から“任意”となり、代わりに課外活動などが入試で重視されていたが、多くのトップ大学が再び義務化すると決めた。
日本に目を向けると、受験生の「課外活動」を重視する総合型選抜(旧AO入試)が拡大し、いまやほとんどの大学で実施されている。『ABEMA Prime』では、日米の受験について考えた。
■米大学で復活する入試制度「SAT」とは?
アメリカでの大学入試では、「学力」「エッセイ」「課外活動・受賞歴」の3項目を各大学に提出するパターンが多い。高校の成績と共通テスト「SAT」の結果、個人の性格や特性を書く共通エッセイと志望動機などを書く大学別エッセイ、そして志望動機を補強する高校時代の活動が、提出内容の一例だ。
海外進学を支援する「クリムゾン・エデュケーション・ジャパン」代表の松田悠介氏は、「学力の中でも、共通テストの影響はごく一部」だと説明する。「成績ランキングや、どれだけ難しい科目を履修しているのかも評価する。入学審査基準の4割を“学力”が占め、課外活動・受賞歴が3割、志望理由書が3割。課外活動を書く欄が10個ほどあり、高校の4年間で積み上げていく」。それだけでは受験者の人間性がわからないため、「志望理由書やエッセイや小論文で確認する。課外活動は好き勝手書けるので、証明できる推薦状などで総合的に評価していく」と説明した。
米国での大学受験で使われる共通テスト「SAT」は、非営利団体College Boardにより運営されていて、英・数の2教科で各800点の1600点満点。何度でも受験可能、世界中で開催といった特徴があり、2024-25年度は、米国内で7回開催されている。
「数学は、日本の数ⅠAレベルで、日本人は満点近く取る。英語はくせ者で、英検1級をはるかに超えた語学力を求められる」という。とはいえ難易度が極めて高いというわけではなく「アメリカの教育を受けていれば、ある程度対応できる。日本の共通テストでも、形式や問題自体は難しくない。高い正答率を取るかの話で、アメリカとは近い」との見方を示した。
■大学受験は“結婚”? 日本は「偏差値順に受ける」
松田氏いわく、「受験とは結婚」。受験生が大学にフィットするかを最重視して、「大学の哲学」「学びの環境」に合うかを検討項目とすることにより、相思相愛関係を作れるかが合格のカギを握る。
日米の受験で決定的に違うのは「日本は偏差値順に受けるイメージだが、アメリカは『その環境に4年間いて、自分が伸びるのか』という“フィット感”が大切。なかにはハーバードを蹴って、知名度の低い大学に行く学生もいる。社会に出たら実力勝負。その準備期間である大学4年間が“育つ環境”じゃないと、逆に苦しい。大学側もカルチャーが合う生徒に来てほしい」という。
共通テストの扱いにも日米差があり、「日本では点数順に合格しているが、アメリカでは課外活動も含めた総合評価。SATが1600点満点でもハーバードに落ちるし、逆に1200点で合格する人もいる」。それでも受験必須に戻した理由として、マサチューセッツ工科大学(MIT)の例を挙げる。「SATの点数と、大学4年間のパフォーマンスが相関しているとわかった。理系が強い大学だから、SATで満点を取れる子の方が成功する」。一方で「カリフォルニア大学(UC)バークレーのようにSAT廃止を貫いている大学もある」と説明した。
アイビーリーグと呼ばれる名門校が、SATを必須にしている理由は「学力で突出して、課外活動にもしっかり取り組む“未来のリーダー”を育てる。成功して、寄付してもらって、研究するというサイクルを作ることが使命」だからだ。「誰しもがそこへ行く必要はなく、ベストフィットスクールを探すことが大事。日本ではキャンパスに足を運ばず、自分が学びたい大学なのかを考えずに受験する。本来であれば、課外活動が考えるプロセスになる」と続けた。
■アメリカ型AOを日本に持ってくるのは難しい?
日本では「総合型選抜」、かつてのAO入試の導入が進み、2022年度では国立の78.0%、私立の91.4%、全体で83.7%が実施している。しかしながら、松田氏はAO実施のための「大学の体力」が、日本では不足していると指摘する。
「日本では書面上で合否を決めるが、アメリカではコンテクストを大事にする。途上国でのボランティアなどは実績として求めず、高校4年間アルバイトして学費を稼いだとか、母子家庭での親のサポート、祖父母の看護も課外活動になる」とした。背景には入学審査官の理解度の高さがあり、「アメリカは見極める基準と経験を積んでいるが、日本ではなかなかできない」と分析した。
その上で、「そもそも日本に持ってきて、どこまでフィットするのか」と問いかける。「経済力が違う。ハーバード大学は基金が8兆円あり、年8000億円生まれる運用益を切り崩して教育へ回す。年間の教育予算も、スタンフォード大学は1.4兆円だが、東京大学は2800億円ぐらい」。予算に余裕があれば、入学審査官の採用やトレーニングもできる。「そのままの仕組みを日本へ持ってくるキャパシティはあるか。完璧な入試制度はないので、各大学が特徴・特色を出し、多様な人材を入学させる仕組みを作る。約100年積み上げてきたアメリカのように、日本の総合型選抜もこれから進化していくと思うので、期待したい」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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