学習指導要領の改訂によって難しくなったという英語の授業。専門家からは子どもの英語離れを懸念する声も上がっている。
「本当に英語がつらいという子が増えており、危機的な状況に陥ることを懸念している」
こう話すのは、英語教育学が専門の和歌山大学 名誉教授の江利川春雄氏。ここ最近の子どもの「英語離れ」に危機感を抱いている。
文科省による2023年度の全国学力・学習状況調査によると、「英語の勉強は好きか」という問いに対し、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と答えた中学生の割合は52.3%と2019年からは4ポイント減少している。
背景として、学習指導要領の改訂によって英語の授業が難しくなったことを江利川さんは挙げる。以前は中学校で習う英単語の数は1200語だったが、2021年度から1600から1800語に増えた。また、「仮定法」といった高校で習う文法も一部追加され、授業は基本、英語で行うことになった。
これに対し、江利川氏は「(それでも授業の)時間数は変わらない。更に小学校で600から700語学んできているものが加算され、中学生が接する英単語は上限2500ぐらいになる」と説明した。
およそ、倍近くに増えたという英単語。さらに「授業は英語で行う」という点については「一生懸命、全て英語でやっている授業もある。分かる子はいいが、苦手な子にとっては苦痛になる」と実情を語った。
負担が増えたのは、子どもたちだけではない。「和歌山県国民教育研究所」が2022年に県内の中学英語教員に実施したアンケートによると、新しい指導要領に対応した教科書について70%が「内容が難しくなった」、英単語の数については69%が「多すぎる」と回答した。
江利川氏も「今まではゲーム性のある楽しいアクティビティの時間があって、それで英語を好きにさせるなど、“ゆとり”があった。だが、英単語の数が2倍にもなると教科書をこなすだけで精一杯だ。楽しいアクティビティよりも昔ながらの一斉講義型のようになってこれが辛いという声をよく聞く」と懸念を示す。
江利川氏はこの新しい学習指導要領の礎になっているという国の政策に疑問を投げかける。
2013年に閣議決定した「第2期教育振興基本計画」。その中では「グローバル人材の育成」も掲げられ、英語力向上に向け高い目標が設定された。
江利川氏はその経緯を「(当時の)安倍内閣が閣議決定したため、文科省は従わざるを得なかった。それに従い学習指導要領と教科書を作った。これが超難化した今の教科書の流れだ」と説明した。
2022年度の「英語教育実施状況調査」によると、目標に設定される英語力を持つ中学生の割合は年々上昇傾向にあり、政策には一定の効果があるようにも思える。
その一方で、江利川氏は「義務教育は基礎・基本を教える場所だ。あまり難しくして嫌いにさせるような授業構成、教科書編成をしてはいけない」と指摘。
およそ10年に一度改訂されている学習指導要領。今後、何が求められるのか?
江利川氏は「今の英単語数を減らして、『英語は楽しい』という気にさせる必要がある。その上で、先生が教え込むのではなくてグループやペアで学んでいくような共同学習の機会を増やすことで、分からない時も生徒同士で教え合ったり、『他者をケアしながら一緒に伸びよう』という子を育てていく。そういう指導が大事だ」と述べた。
慶應義塾大学教授で応用言語学の研究者と研究を行っているという中室牧子氏は「英語学習は『動機』が非常に重要だ」と指摘する。
「文科省が後押ししている留学プログラム『トビタテ!留学JAPAN』において、短期間の留学、あるいは英語圏以外の留学でも生徒たちの動機付けが上がって実際の英語力が伸びたことが追跡調査で明らかになっている。つまり、自分の身近な友達や外国人の友達と話したい、コミュニケーションを取りたいという動機が重要だということだ。日々、単語や文法を覚えたりする中から、英語を勉強したいという気持ちは本当に湧き上がってくるのか。やはり子どもたちの動機づけを大事にするような教育であってほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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