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【映像】パリの空港と日本の空港、障害のある人への「対応の違い」とは?
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 障害を理由に「不当な差別的取り扱い」を禁止する、障害者差別解消法が改正され、障害のある人への合理的配慮が4月から義務化された。SNSでは不安や疑問の声も上がっている。対応する事業者はどんな準備をするべきか、当事者が必要とする合理的配慮について、専門家に聞いた。

【映像】パリの空港と日本の空港、障害のある人への「対応の違い」とは?

 「義務化によって少しでも障害者理解が進めばいいなと思う」「合理的配慮とわがままの線引きは難しい」など、SNSでさまざまな議論を呼んでいるのは、障害を持つ人への「合理的配慮」。改正された障害者差別解消法に基づき、4月から行政機関や事業者は、障害者の困りごとに対応することが義務となった。

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 障害者理解のためのeラーニング事業を展開し、自身もダウン症の弟を持つ株式会社Lean on Me代表取締役の志村駿介さんは、2人でパリの空港を利用した時に弟に対する「合理的配慮」を感じたという。

 「(パリの空港で)弟の障害に気がついたスタッフの方が乗り換えの手続きを弟に話しかけながら進めてくれた。対して、日本の空港で働いている方は弟ではなくて僕に話しかけて手続きを進める。まずは弟に声をかけ、意思疎通ができるか確認し、難しければ僕に話しかける、というようなワンクッションが欲しいと感じた」

 そもそも、事業者側に求められる「合理的配慮」とは、どのようなものなのか?

 志村さんは「例えば、自閉症スペクトラム症で感覚過敏がある私の知り合いは、遠くで話している声が耳元で叫ばれてるように聞こえる。飲食店でその症状を伝えた際に個室などに案内いただけたりすると配慮していただけたと感じる。また、知的障害のある方は飲食店の文字だけのメニュー表を見てもどんな料理が出てくるのかがわからず注文しづらかったりするが、絵カードのような料理の絵が描かれたものがメニューに載っていると指差しで選んで意思を汲み取ることができたりする」と、例をあげる。

 障害のある人が日々直面する、社会の中にある制限。バリアを取り除くための対応が事業者に求められている。

 とはいえ、設備や人手不足などの理由によって、対応が難しい場合もある。現状、合理的配慮の提供義務に直接的な罰則はないが、志村さんは、「それぞれの状況に合わせたガイドラインを準備した上で、お互いにコミュニケーションをとることが重要」と話す。

 「『何時から何時の間であればお店は空いているので対応できる』など、正直に向き合って話していくことが大事。『なんとかしてサービスを提供したいけどどうしても無理』と本音でしっかりと伝えることでトラブルを避けられるはず。なぜなら、日本はもともとおもてなしの文化、ホスピタリティがあり、その点には長けているからだ」

 政府は、合理的配慮のヒントとなる事例についてリーフレットやデータベースで情報を提供している。研修を実施した企業から、様々な相談を受けてきた志村さんは、「こうした情報も活用しながら、柔軟に取り組んでほしい」と話す。

 「経営者側が『合理的配慮は企業側の負担でしかないよね』という誤った捉え方をしているケースもある。合理的配慮という言葉が漠然としていて『何をしたらいいかわからないからハードの投資が必要なんじゃないか』『お金がかかるんじゃないか』のように言葉が一人歩きしているようだ。本来はケースバイケースで対応していけばいい」

 実際に現場で対応し、コミュニケーションを重ねていくことが理解ある配慮につながるという。

「失敗してもいい。次にどう活かしていくかが大事だ。障害がある方と接することなく準備だけをしても完璧な対応ができるわけがない。日頃からいろんなお客様と向き合う機会の中で個別ニーズに応えていく。そんな割合を少し高めていくなど、ちょっとした工夫の積み重ねから取り組んでいけばいい」

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 障害のある人への合理的配慮について、世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋氏は「車椅子の友人と一緒にレストランに行った際に車椅子という理由だけで頭ごなしに拒否されることがある。理由を教えてくれれば納得できる場合もあるし、こちら側から『では、こういう工夫ができますよ』と伝えるなど、対話が始まる。そういう当たり前のコミュニケーションをまずさせてもらえないでしょうか、というのが基本的な考え方だと思う」と問題提起する。

 義務付けられる合意的配慮については、事業者側の「過重な負担にならない範囲で」と定義されているが、この考え方については「例えば飲食業であればお店の規模や従業員数、時間による混雑状況などによって一律には言えないと思うが、『過度な無理はしない』というのが、この合理的配慮の考え方。例えば食事やトイレの介助を依頼された時にそこまでの人的余裕がないのであれば、断ることができる」と説明。

 「その都度、お互いに最適な判断をしていく」とした上で、対応の可能性についても指摘する。「例えば、『車椅子が大きくて他のお客さんがお手洗い行くときにぶつかる心配がある』という場合は、テーブルや椅子を少し移動させれば解決できることもあるし、段差があって入り口に入れないのであれば、高いものでなくとも、折りたたみ式の簡易スロープを購入・設置するといった対応もとれる可能性がある」と述べた。

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 さらに澤田氏は「極端に『配慮できる・できない』といった白黒で判断しているケースが多くみられた」と指摘する。

 「実は少しの工夫で解決するようなグレーゾーンがたくさんある。今回の義務化はその点について考えるいい機会だと思う。ただ、事業者側だけで考えても見当はずれなアイデアになってしまうので、目の前にいる障害のある方に実際に『どうすればできるのか』『過去どうやったらできたのか』というヒントをもらいながらできる方法を検討する。それでもその結果対応が難しい場合もある。対話を重ねていって、感情ベースではなくファクトベースで対話することが大事だと思う」と指摘。

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 「例えば、カウンターしかない狭い店で車椅子の方がどうしても入れなかった場合、お店の改築までしなくても、例えばテイクアウトができるようにして、入店はお断りせざるをえなくてもテイクアウトを提案する、といった方法も考えられる。必ずしもお金をかける必要もなく、答えは一つではない。そんな前提で考え続けることで社会全体の空気感が良くなっていくのではないか」と期待を示した。
(『ABEMAヒルズ』より)

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