椅子を引く、という子どものちょっとしたいたずら。これが人の一生を狂わせるほどの大事故につながることがある。
【映像】「椅子引き」で下半身まひ→懸命のリハビリ 現在の姿とは?
「新学期が始まった子どもたちに事実を伝えたい」。このいたずらで障害を負った男性に話を聞いた。
「いつ何が起こるかわからない」
この日(2014.7.2)から俺の人生はガラッと変わった。
椅子に座ろうとした時に、後ろにいた女の子がふざけて俺の椅子を引いた。
床にお尻から突き上げるように落ちた。その瞬間、背中と腰に異常な激痛が走った。
(山田雄也さんのXより)
これは、座ろうとしていた人の椅子を引くといういたずらで、大怪我をしてしまった山田雄也さんのSNSでの投稿だ。
10年前、当時高校3年生だった山田さんは、席に座ろうとして同級生に椅子を引かれ、背中とお尻を強打し、病院へ救急搬送された。
山田さんは当時について、「脊髄が打ち所が悪かったっていうのもあって、潰れた感じっていうか…そこから痺れと、痛みが発生したというふうに言われた」と振り返った。
山田さんは医師から手術を勧められたが、その選択はとても辛いものだった。なぜなら山田さんは、八村塁選手と対戦した経験もあるなど、プロを目指すほど実力のあるバスケットボール選手であり、当時は国体の選考会とウインターカップを控えていた。
「手術やめて、そっち(国体)の方に行きたいという気持ちはすごくあったが、バスケ人生終わっちゃうのかなってという方の気持ちの方が大きかったので、覚悟を決めて手術をした」(山田さん、以下同)
強力な全身麻酔を使い、9時間もの大手術に耐えた山田さん。しかし、手術から3日後、背中に激しい痛みを感じたのだ。
MRI検査の結果、血栓が見つかり緊急手術を受けることに。2度目の手術の後、山田さんはしばらく意識が戻らず、1週間ほど生死の境をさまよった。
意識が戻ってからの症状について山田さんは「目が覚めた時には、お腹から下の感覚が全くなくて、宙に浮いている状態っていうか、上半身しかない体みたいな感じですごいショックを受けた。走って跳んでというのが当たり前の生活だったのに、いきなり座ることもできなかったので、信じられないというか…」と説明した。
その後は下半身がまひした状態のまま、辛い治療が続いた。髄液を抜くための太い注射をした際には“背中からナイフを突き刺されたような痛み”を感じ、たまらず叫んでしまったという。
しかし、希望がみえる日もあった。
「酸素カプセルを試した次の日に、指先がちょっと動くようになって、感覚も少し分かるようになってきたので、その時は一人で泣いた」
家族の支えやリハビリのかいもあり、2カ月後には車いすに乗れるまでに回復した。
椅子を引く。ちょっとしたいたずらだったかもしれないその行為は、プロバスケットボール選手を目指すほどの身体能力を持っていた山田さんに、下半身まひという取り返しもつかない大きな障害を負わせることになった。
バスケットボールがしたいという一心で、リハビリに励んでいた山田さん。転機は20歳のときに訪れた。
「岐阜SHINE」という車いすバスケットボールチームから、SNSを通じて連絡があったのだ。車いすバスケについて知らなかった山田さんは、チームの練習に参加してみることにした。
「競技用の車いすに乗せてもらって、走り方とか、車いすの操作の仕方を教えてもらってから、一緒にゲームに交らせてもらって。久しぶりに、風を切って走ってる感覚がうれしくて、『また走ってる』と感じた」
プレーする楽しさを全身で味わえたこの日から、山田さんは車いすバスケにのめり込んだ。しかし、やればやるほど、健常者だったときの記憶が戻ってきたという。
「自分はもともとジャンプ力や脚力が持ち味のプレーヤーであり、もともとのバスケの感覚が残っているので、(車いすバスケを)だんだん違うスポーツに感じてしまうようになり、楽しさがなくなってしまって」
かつてのようにプレーできないもどかしさ。理想と現実のギャップに苦しみ、車いすバスケから離れた時期もあった。
しかし3年後、山田さんはもう一度、車いすバスケに挑戦することを決意する。その裏には、不安定だった心を支えてくれた存在があった。
「車いすバスケをやり始めたぐらいの時から、お付き合いさせてもらっていた方と、今結婚しているが(彼女が)『もう1回頑張ってみたら』と話してくれたお陰で『もう1回やってみるか』と考えられた」
車いすバスケをやめてしばらくは、バスケのことには触れずそっとしておいてくれたという奥さん。絶妙なタイミングで夫の背中を押したのだ。
障害によって、人生が一変した山田さんだが、そこから見えてきたものもあるという。
「周りの支えがなかったら、今の自分はない。周りに恵まれてた。今の夢は生まれた息子にかっこいいお父さんっていうふうに見られたいので、日本代表を目指して頑張りたい」
家族の存在によって生まれた新たな夢。新学期が始まり、多くの生徒たちが教室に集う今、椅子引きといういたずらについて山田さんは子どもたちに伝えたいことがあるという。
「同じような思いをしてもらいたくないので、椅子を引く行為は本当に危険なんだと伝えたい」
山田さんの事故について、ダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介氏は「いたずらや悪ふざけなどと言うと軽く感じられてしまうが、引き起こされる結果はあまりにも重大。『学校で起きたことだから』と言い方を丸くする必要はなく、明確な加害行為と言える。いじめが暴行や傷害、スカートめくりが強制わいせつに当たるのと同じだ」と指摘。
「学校の先生も『悪ふざけはいけませんよ』『いたずらはやめてくださいね』ではなく、『人の一生を左右することであり、命に関わる』『犯罪にもなる』といった言葉も使いながら、しっかりと児童・生徒に伝えていくことが大切だ」と訴えた。
(『ABEMAヒルズ』より)
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