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 今、ある弁護士のアドバイスがSNSを中心に拡散し話題となっている。もし事件などの当事者となり、警察や検察など捜査機関から取り調べを受けることとなった場合、たとえ無実であっても「黙秘すること」を勧めているのだ。

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 黙秘権は憲法や刑事訴訟法で保障されているが、ネット上では「無実でも黙っているのは不利にならない?」「裁判の時に心証が悪くなりそう」といった心配の声もあがる。黙秘のメリット・デメリットについて、アドバイスを発信した弁護士と、元警察官も交え『ABEMA Prime』で議論した。

■弁護士「黙秘して裁判で責任を問われることはない」 取り調べ時の対応は

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 元裁判官で弁護士の西愛礼氏はXに、全13ページにわたる「心構え」を投稿した。なぜ黙秘なのか、なぜ黙秘は難しいのか、黙秘権行使を困難にする被疑者心理、黙秘の仕方、雑談に応じるべきかなどが記されている。

「初めて取り調べを受ける場合、何に気をつけるべきかわからない。警察はふだん頼もしい味方だが、犯罪の嫌疑をかけられた瞬間に対立する国家機関になる。不確かな記憶で話して誤解を生んだり、アリバイを潰すような捜査が行われた例も実際にある。話すことで真実が隠されてしまう危険があるので、黙秘で守ろうと書いているものだ。弁護士が無理に無罪を狙っているものではなく、これまでの冤罪事件や不当な供述調書が生まれた歴史、供述心理学などを踏まえた最適解であり、弁護上の実務のスタンダードだと思っている」

 黙秘は後ろめたい行為と思われがちだが、そうではないという。取調官は「容疑者の証言はすべて嘘」という前提で取り調べを行い、誘導・脅し・叱責・説得などあらゆる手段で供述を“作文”すると指摘。雑談を装った取り調べもあり得るため、それにも応じないことを勧めている。

「供述調書は、自分が話したことを一言一句取ってもらえるものではない。警察が聴き取った内容を作文し、合っていれば署名押印する。聴き取りや要約の過程の中でニュアンスが変わったり、捜査に有利な調書が取られてしまうおそれも避けられない。なので、まず弁護士の人に聴き取ってもらい、例えば報告書を作って検察官に出すといったことができるということになる」

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 また西氏は、「捜査段階で黙秘していたからといって、裁判で責任を問われることはない」と説明。黙秘の方法としては、「別のことを考える」「取調官の質問をひたすら覚える」「覚えた内容は『被疑者ノート』に記録する」ことを推奨している。

「取り調べで100悪いと言ったものが、150とか200で捉えられかねない。捜査は起きた事件のことを調べるわけで、不確かな記憶で話しても真相解明につながらない部分がある。それよりも、きちんと裁判で証拠を見た上で話したほうがいい。一方で、100のうち100を認めていて、起訴猶予になるといった時など、黙秘を解除する場合も当然あり得る。ただ、取調官が信頼できるかどうかは初めての人に判断できないので、そこも含めて弁護士に相談した上で決めようということだ」

■元警察官「黙秘で有利になるチャンスを逃す可能性も」

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 警視庁・元捜査一課の高野敦氏は、前提として弁護士と捜査機関の役割をあげる。弁護士が行うのは、被疑者の基本的人権の保護や、依頼人の利益最大化、権力の横暴の監視。捜査機関が行うのは、犯罪者の取り締まりや真実の追及、被害者の救済、治安の維持。両者の目的は「社会正義の実現」で一致するが、弁護士は依頼人視点になりがちなこと、捜査機関は冤罪の発生などが懸念事項としてある。

「弁護士に言われて本当の犯人がみな逃げていたら、社会正義は成り立たないし、社会秩序はめちゃくちゃになってしまう。被害者側は自分でやり返せないから、“息子を殺した犯人を殺してやりたい”という思いだとしても、グッと我慢して裁判において処罰する。その思いは実現しなくてはいけないわけだ。そして、日本の治安がこれだけ良いのは、弁護士ではなく捜査機関が守っているから。この2つは相反する立場であり、かつ良い緊張関係をもたらしてこそ、冤罪や人権侵害を防ぐこともできる」

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 高野氏は「黙秘権は私も全く否定していない。その行使を警察官が止めるようなことがあれば大不祥事だ」と説明する一方で、有利になるチャンスを逃す可能性があると述べる。

「例えば、簡単なケンカや出来心の万引きをした時、“ごめんなさい。治療費・お金を払います”と言えば、警察も逮捕はしない。微罪処分は証拠隠滅の恐れがない、犯情が軽微であるとか、被害者が処分を希望していないといった意思が大事になってくるが、相手が黙秘しているとなれば許さないだろう。そうなれば、警察が逮捕しなければならないというのは起こり得る。任意同行で話を聞いて、逮捕状を執行しないことも当然あるが、そういう時に黙秘されると、証拠隠滅の可能性ということで逮捕せざるを得なくなってしまうのは事実だ」

 一方、結論ありきで取り調べを進めていくことは基本的にないものの、警察官を見極める必要もあるとした。

「間違った取り調べをしないよう最大限努力するのが普通の刑事だが、信用できない人もいるかもしれない。弁解を聞いてくれるか、裏付けを真面目にやってくれそうな人だったら話す。一方で、話を全く聞かないタイプだったら黙秘すべきだし、勝手に作られたような調書であればサインする必要はない」

■自白の有無で量刑に差? 取り調べの「可視化」に課題も

 殺意が「あり」なら殺人罪、「ない」なら傷害致死罪など、同じ行為でも自白によって量刑に差も生まれる。裁判では度々自白の信用性が争点になるほか、真実を聞き出せない限り立証が困難とされることも。

 西氏は「殺意の有無については、凶器や刺し傷の数で立証でき、そこに自白は必要ない。これまでたくさんの冤罪事件が虚偽自白によって生み出されてきた。調べたところ、戦後の冤罪事件は42件、このうち虚偽自白が29件(69%)と高い割合だ。裁判所としても自白は注意して見ないといけない対象になっている」と述べる。

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 取り調べについては、不透明さや証拠捏造が指摘された元厚労官僚の村木厚子さん冤罪事件などを契機に「可視化」の議論がスタート。2019年に裁判員裁判事件、検察捜査事件を対象に取り調べの録画・録音が義務付けられたが、日弁連は「対象は全事件のうち3%未満で不十分」と現状を指摘している。

 高野氏は「死体を埋めた場所などのような、証拠ではなく供述から見つけないといけない時には、“正直に話してくれ”というのはやる。ただ、それに応じる・応じないは弁護士の戦略でもあり、自由だ。本当に役割の違いで、警察もやるべき捜査はやらないといけない」と語った。(『ABEMA Prime』より)

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