ある中学校の校長がコンビニでセルフ式コーヒーを購入したところ、買ったものより大きいサイズのボタンを押したとして、窃盗の疑いで書類送検された。校長は2024年1月、懲戒免職処分となった。
人手不足や経費削減であらゆるものが「セルフ化」しているが、その代表格がレジだ。調査会社LendingTreeが米国民2000人に行った調査によると、“うっかり万引き”をしたことがあるかの問いに、「はい」が21%、「いいえ」が68%、「わからない」が11%。つまり、5人に1人が経験しているとわかった。なお、7人に1人が悪意ある万引きをしたと回答している。
セルフレジでうっかり会計を忘れて、大ごとになりかけた東京リーマン雑記帳さんが経験を語る。「財布だけを持って店へ行き、セルフレジでお弁当だけ会計した。ぶら下がっていたレジ袋を何の気なしに1枚取って、店を出ようとしたときに『1枚3円』と書かれていることに気づいた」。すぐ店員へ謝罪し、改めて袋だけ購入したという。「ものすごい量の汗をかき、指先は感覚がなくなるほど冷たくなった。なにを食べたのかも覚えてなく、1週間くらいよく眠れなかった」。
セルフレジに困っているのは、客だけではない。コンビニ定員の佐藤さん(仮名)は、「客がセルフレジを打っていると感じたが、音が聞こえなくて、後で『万引きされた』とわかった」と話す。疑いのある客に声をかけても、「戻ってきて会計しても、この人は本当に悪意を持っていたのか、うっかりなのかと悩む」という。
若狭勝弁護士は「本当にうっかりミスでお会計をしていなかったとしても、証明が難しく弁解しても厳しいのでは。現行犯逮捕となる可能性は十分に考えられる」との見方を示す。窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたり、もしミスでも代金を支払わずに自宅へ持ち帰った場合、申告しなければ「占有離脱物横領罪」に問われる可能性もあるという。
■セルフコーヒーもレジも仕組みに問題?防犯対策は環境がカギ?
前述の佐藤さんによると、この1年で万引きが多くなり、被害金額的にも右肩上がりに。人手不足解消にセルフレジを導入したはずが、見回りなど業務中に気にしないといけなくなり、かえって負担に感じているという。
犯罪学が専門の立正大学教授・小宮信夫氏は、「犯罪になる手前で起きないようにすることが大事だ」と指摘する。「店のコスト面では現状のほうがいいとしても、犯罪者を生んでしまった場合の社会的コストの膨大さを考えると、もう少し投資して、犯罪の機会が生まれないシステムにした方が良い」。
小宮氏は「機会なければ犯罪なし」の前提に立つ“犯罪機会論”の考え方に注目・研究している。動機があっても犯罪をしにくく、諦めるような環境を作るもので、物理的・心理的なバリアで接近を防ぐ「領域性」、目撃される可能性が高いと実行できない「監視性」、管理意識や対策で犯人の目的を達成させない「抵抗性」の3要素から、犯罪抑止につなげることを提唱している。
中学校長の事例では、Rサイズ(110円)のコンビニコーヒーを購入するも、機械でLサイズ(180円)のボタンを選択していたことから、「セルフコーヒーの仕組みが問題では?」といった声もある。NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「使いづらいセルフ式コーヒー機が話題になった。加害者にも被害者的な側面がある。使いづらいUIやUXも、犯罪に密接にかかわってくる」と述べる。
一方で小宮氏は、日本では機会論ではなく、“犯罪原因論”ばかりが語られると指摘する。後者は犯罪の原因を明らかにしようとする考え方で、原因は犯罪者の動機にあるとして、動機を生む「性格や境遇」が重視される。「報道やコメントも7割が犯人批判、3割が被害者へ同情するもので、犯行現場(環境)に関するものがほとんどない」。
お笑いコンビ・EXITのりんたろー。は、「セルフレジでの袋購入は、バーコードを読み取るものもあれば、『レジ袋買いますか』と画面で選ばせるものもある。“うっかり”がなくなる仕組みづくりが重要なのでは」と提案。
大空氏は「セルフレジの導入は、単純に人件費がひっ迫して合理化したいというサービス業の考え方で、犯罪とは本来関係ない。性悪説に基づいて犯罪機会論を考えるのか、人件費をかけて見守るのか、どちらがコストとして合理的か考える必要がある」とした。(『ABEMA Prime』より)
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