「君のためを思って言うけど、どんどん苦労したほうがいい」などと、自分の経験則からアドバイスする上司や先輩が、30代でも「若年老害」と呼ばれている。横柄な態度で考えを押しつけたり、上から目線でものを言ったり……。コンプライアンスに厳しい時代、ハラスメントを気にして「あなたのためだ」と理解を示しているようにすることが特徴だという。
一方で上の世代からは、社内チャットのやりとりでスタンプ1つのみを返されたり、報連相もなく退職代行で突然会社を辞めたり、若者の害「若害」を問題視する声も。世代間による「害」の押しつけについて、『ABEMA Prime』で考えた。
■大空幸星氏、若年老害は「距離感の問題では」
職場の上司による「若年老害」で転職を決めた、被害者側のまるこさん(仮名、25)は、30〜40代の上司たちから、「成長のためにやったほうがいい」と仕事を依頼され、断ると「君のために言っているのに」と言われた。自慢話や苦労話が多く、新しい提案をしても受け入れてもらえない上、望んでいない勉強会が開催されたという。
一方で、自身の「若年老害」の行為に気付き、自重するよう心がけているという加害者側のおれおさん(仮名、41)は、20代の若手社員に対して、仕事の進め方やアドバイスなど自分の成功体験を基に話している。良かれと思って相手が求めている以上のアドバイスをするほか、1on1の環境を作ろうとするそうだ。
しかしながら、おれおさんは「近年はリモートでのアドバイスの最中にカメラをオフにして、完全に黙ってしまうような若手社員もいる。教え方に困っている所はある」と嘆く。
NPO「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、「距離感の問題はある」と指摘する。「若手社員にもスキルアップや能力開発のニーズは、おそらくある。その対価としての我慢には許容される部分はあるが、『頼りにしてもらっている』などの幻想が、本来若者が必要とするスキルに対する対価として、あまりに大きすぎる。距離感がバグっているのが“若年老害”ではないか」。
経済学者で慶応大学名誉教授の竹中平蔵氏は、「一番老害を感じなかったのは、大蔵省で働いていたときだ」と振り返る。「怒鳴りつけられても、『それおかしい』と言い返す。その繰り返しで、老害を感じなかった。老害や若害があれば、“老益”や“若益”もある。終身雇用・年功序列で自由がなかった時代とは違い、割り切りが必要ではないか」。
作家の乙武洋匡氏は「先輩が築いてきた経験は財産だ」と語る。「大事なのは伝え方。『○○だから、しろ』と命じると老害になるが、経験談をメリットやデメリットとともに提示すれば、老害化はある程度防げる。若年老害を恐れて、経験やキャリアを下に伝えないのは、継続性の面でもったいない」。
■「若害」なる言葉も…たかまつなな「なんでも『害』と言い過ぎだ」
老害に対する言葉として、「若害」も話題になっている。おれおさんの実感としても、「端的に物事を考える人が増えている」のが現状だ。「チャットツールでアドバイスしても、『ありがとう』とかえってくるのではなく、いいねのスタンプのみ。指導を受けたときのビジネスマナーとして良いのかと感じて、『私より上長には、そういうやりとりをしてはいけない』と伝えるときもある」。
時事YouTuberのたかまつなな氏は、昨今の風潮を「なんでも『害』と言い過ぎ。教育をしっかりしてこなかった弊害だ。自分の意見を言うことは、相手の人格を否定しているわけではない。どう合理的に調整するか、考え方が違っても結論を決めることが大事だと学校で教えないから、『自分の意見を否定された』と感じる」との意見を述べる。
大空氏は「老害という言葉は、歩み寄りを求める文脈でできた言葉ではない」とし、「不満のはけ口として『あいつ老害だよね』と言い合うことで機能していたが、『歩み寄ってほしいのでは』といったニーズが生まれた。自分が『若年老害だ』と自覚した時に、インプットやアウトプットが少なくなる懸念がある」との見方を示した。
「若年老害」と「若者」の差は、どう埋めればいいのか。ワークスタイル研究所の川上敬太郎氏は、年下にもリスペクトを持ち、自分にないものを与えてくれると考えることや、「○害」と呼ばず、年齢差別でなくハラスメントで対処すること、年齢関係なく立場(上司部下)が逆になる可能性を頭に入れておき、自身の言動への抑止力とすることなどを挙げる。
乙武氏は「リバースメンター制度」の重要性を語る。「メンターは年長者や経験豊富な人物がアドバイスするものだったが、それをひっくり返す制度。年下からも学ぶべき点があると、リスペクトの意識を持つだけでも変わってくるのではないか」。
竹中氏は、「ある教育機関の調査によると、世代間の問題を解決している人は、圧倒的に三世代同居が多い。これは最も身近なダイバーシティで、核家族化になればなるほど、気をつける必要がある」とした。(『ABEMA Prime』より)
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