パートナーからDV被害を受ける男性、通称「弱者男性」と呼ばれる人々がいる。一般社団法人「白鳥の森」の山口凜理事は、「DVは“鬼嫁”や『妻の尻に敷かれている』とは少し違い、家庭の中でも人権侵害が行われている」と指摘する。
被害者のうち約9割が、暴行や傷害など肉体的な被害だという。「白鳥の森」のアンケートでは、実際にDV被害にあった男性20人全員が「死の危険を感じた」という。事例としては「収入を全て没収される」「『お前はダメな人間だ』と罵倒される」「菜箸で刺される」「刃物で傷つけられた」「腐った食べ物を食べさせられる」「寝床にゴキブリやムカデの死骸を置かれる」「部屋から出る際には妻の許可が必要で、妻の機嫌が悪いとトイレにも行けない」などがある。
警察庁の発表によると、男性のDV被害相談は、女性の3分の1ほどだが、2011年の1146件から、2023年は2万6175件へと、約23倍に増えている。
「小さい時から『男なんだから泣くな、我慢しろ』など、ジェンダーのシャワーを浴びて、無意識に植え付けられて育っている人が多い。男性自身も『自分さえ我慢すれば』と、自分の努力で被害がなくなると思ってしまう。でも実際はそうでなく、社会も認知していないし、その中で育った被害者自身も『男性も被害に遭う可能性がある』と知らない。女性よりも相談に繋がりにくい」(一般社団法人「白鳥の森」・山口凜理事)
そんな中注目されているのが「弱者男性」だ。学歴や収入が低い、結婚歴がない、障害がある、生活保護を受けている、パートナーからDVを受け居場所がない、など社会的に孤立している男性を指す。
NPO法人「日本弱者男性センター」の日本武尊理事長(46)は、DV被害を受ける男性の生活支援を行っている。日本さん自身も6年前、結婚を前提に交際していた15歳年下の女性からDV被害を受けた。「フラッシュバックの形で、夢ですぐ見てしまう。“ピンポン”とインターホンが鳴るだけで怖かった」と当時を振り返る。
「彼女が一方的に『月に1回、遊園地に連れて行ってほしい』『週に3回はレストランで外食したい』と言ってきた。共働きする約束で暮らしたが、彼女が働かなかった。『金銭的に僕ひとりが働いて、外食や買い物は無理でしょ』と言うと、奇声を発しながら殴ってきた。包丁を持ち出して、あなたを殺して私も死ぬと、包丁を突き出してきた」(日本弱者男性センター・日本武尊理事長)
日本さんは玄関を出て、ドアを押さえながら110番通報した。しかし駆けつけた警察官は「あなたが愛されている証拠だ」と、笑いながら帰ってしまった。「男性もDV被害者になる可能性はある。周りが何と言おうとも、どこかに相談したり、警察・役所に相談したりして、『男だから大丈夫』と思わない。社会的認知が広がってほしい」。
山口氏もDV被害に男女の区別はないとした上で、男性被害者は声も上げづらい状況だと指摘する。「男性被害者の場合は、子どもがネックになる。離婚時に明確な虐待行為がなければ、監護者(育ててきたメインとなる人)は母親がほとんどで、(親権は)母親の方に行く」と説明する。「被害者である父親としては、子どもと離れる=自分が避難するとなるため、なかなか決断できない。どんな相手を選ぶかによって、自分もいつ被害に遭うかわからないと、男女とも思っておいてほしい」。
明星大学心理学部の藤井靖教授は、「夫婦やカップルのカウンセリング時には、必ず男性と1対1で『DVの有無』を聞く」という。「男性は体力があって強いと思われているが、心理的には弱い。例えば、自殺者数は女性の2倍、孤独死も8割が男性。自分に構わなくなる“セルフネグレクト”も多い」。また周囲との関係性にも差がある。「女性はDV被害を誰かに話せているが、男性は自分だけで抱えている場合が多く、そこも追い詰められる要因だ」。
千原ジュニアは、聞いた話として「妻からDVを受けた男性が、マグカップで顔面を殴られて失明したが、子どもがいるから離婚しなかった」ケースを語る。最終的には離婚に至ったが、その経緯は「会社へ行くときに背中を蹴られて、振り返ると息子だった。母親に『蹴ってこい』と言われていた。『息子の暴力性を自分がいることで引き出してしまうのか』と離婚に踏み切った」そうで、話を聞いたときには「地獄やな」と思ったという。
DV被害に悩んでいる男性には、どんな具体策があるのか。現状では、被害に遭った人が一時的に避難できる公的なシェルターは女性用のみで、男性の場合は民間の団体を頼るしかない。東京都の場合、相談内容によっては、一時的に避難できるホテルを用意してくれる場合もあるほか、東京都が運営する「東京ウィメンズプラザ」では、男性のための悩み相談を週4日受け付けている。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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