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【映像】こんなに下がったのか…国から大学への運営費交付金(グラフ)
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 「もう限界です」

【映像】こんなに下がったのか…国から大学への運営費交付金(グラフ)

 6月7日に発表した声明の中で厳しい財政状況について「限界」と表現し訴えたのは、全国86の国立大学からなる国立大学協会だ。

 永田恭介会長は各大学の運営を圧迫する要因について、消費税や近年の光熱費の高騰、そして働き方改革によって人材の拡充が必要になることなど、経費の増加を挙げる。

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 国立大学運営の基盤的経費として、各大学には国から運営費交付金が配分されている。例えば東京大学の場合、2022年度の決算報告によると、全体でおよそ2900億円の収入のうち、およそ830億円を占めるのがこの運営費交付金だ。

 「運営費交付金の8割は基幹経費である高熱水料や人件費が占める。これが増えることはあまりない。削減された中で努力してきたが、限界が来たということだ」(永田会長)

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 国立大学が法人化された2004年以降、運営費交付金は徐々に減額され、20年前と比べるとおよそ1600億円減少。円安や物価高による経費の増加によって、教員や若手研究者の確保など、質の高い教育研究の維持が難しくなりつつあると大学協会は訴えている。

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 そんな中、各大学で検討されているのが、授業料の値上げだ。先日、東京大学では値上げ反対を訴える学生らが集会を開き、大学に対する引き上げの根拠や詳細を求める決議がなされた。

 「調査では、『地方出身のため東京に出るのに学費の困難がある』『そもそも受験すらさせてくれない家庭が周囲に多く存在した』などの実態を聞いている。授業料引き上げの理解を学生に求めるならば、まず東京大学が様々な大学と連携し、国に対して高等教育予算の拡充を訴えることが先であると考える」(授業料値上げに反対する学生)

 授業料の値上げについて、東京大学は10日、コメントを発表。改定は検討しているとしたうえで、「経済的困難を抱える学生への配慮は不可欠で、授業料免除の拡充や奨学金の充実などの支援策も必要なため慎重に見極めている」と説明している。

 現在、東京大学の授業料は国立大学の標準額である53万5800円だが、各大学は裁量で最大20%、およそ10万円までの増額が可能だ。しかし、奨学金の充実などを考慮すると、それほど大きなインパクトにはならないのではないかと永田会長は話す。法律を改正すれば、それ以上の授業料値上げも可能になるが…

 「例えば、都市部の大学が一気に100万円、150万円にしたとしても、地域の大学ではそこまで上げられないという大学が出てくる。もちろん学生支援に使ったとしても、大きな差が生まれる。各家庭に負担をかけるのも難しく、各大学の教育や研究の水準にも影響してしまう。どなたにでも公平にアクセスはできても、中で習う内容が違うということになれば問題だ」(永田会長)

 税金を原資とする運営費交付金と、学生やその家庭が負担する授業料。高い水準の教育を受けた人材が社会にどれだけの価値を生み出しているのかを考慮した上で、大学の在り方について社会全体で議論する必要があると永田会長は訴える。

 「受益者は学生個人だけでなく、社会全体も受益している。受益者が個人と社会であるならば、負担割合について大きな議論が必要だ。フランスのように授業料を国が負担する国もあれば、アメリカやイギリスのように受益者が個人であるという前提で、学生がかなり負担する国もある。やはり社会全体で『大学とはこうである』『大学の価値はこうやって担保しよう』という認識の共有がなければ難しい議論だ」

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 山田進太郎D&I財団COOの石倉秀明氏は国立大学の意義について「元々、国立大学は『お金の心配をすることなく、学びたい人が高度な教育を受けることによって社会に還元していく役割のために国が運営する機関』であったはずだ。だが、今は国立と言いながら運営は大学が行い、交付金はあるが使い道も限られており、大学自身による稼ぎ方にも制限があるなど、制度自体が本末転倒になっているのでは」と指摘した上で、国立大学を一括りにして議論することの限界を指摘する

 「例えば東京大学のような、首都圏にあって、ある意味でエリートを養成する機能と『誰でも学べる場としての国立』を分けて考えなければぼんやりした議論になってしまう」

 運営費交付金の減額、光熱費などの経費の急騰によって厳しい状況にある大学経営について石倉氏は「光熱費・人件費の高騰はどの企業も向き合っている問題だ。いかに経営努力をしていくかという話と、質の高い授業・研究をしていくかという話は別物。大学の『外』から経営のプロを入れる方法もある」とする一方で、「国立大学の役目を考えると、完全に国が(費用を)出してもいいのではないか」と提言する。

 「例えば、1人の子どもが生まれて、小中高大、全て公立に通った場合、学費の総額は生涯で1000万円程度だ。大学を卒業後、生涯で3000万円〜4000万円ほど納税することを考えれば、1000万円投資して数十年後に3000万円返ってくるという“割りがいい投資”のようなもの。大学のための費用を国が負担したとしても、将来の自分たちに返ってくる『率』はとても高いのではないか」

 そもそも大学経営は財務状況によってどのような点に違いが出るのだろうか?

 石倉氏は「例えば学生が学術論文にアクセスできるようにするためにもお金はかかり、さらに研究費の助成、教授への待遇、どれだけの研究員を抱えるかなどの問題もあると思われるので、かなりお金はかかるだろう」と話す。

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 海外に目を向けると、フランスでは国立大学の授業料は無料、対してアメリカでは州によって異なるものの平均して高額でありながら、「受益者は学生」という考え方で授業料のほとんどを学生が負担している。

 石倉氏は「フランスなどでは大学に入る前にコースを選ばせた上で、『エリート養成として国が負担する』という方針が明確。アメリカでは大学がビジネスとして運営されているが、日本はどちらにも振り切れていない。『国立大学は誰もが学びたいことを学んで高度な教育を受けられる機関である』と定義するのであれば、そちらに振り切るべきなのではないか。もし、『大学はそんな機関ではない』というのであれば私立に任せればいい。私立はビジネスとして、各大学がエッジを立てることで高額な学費に見合った価値があると見なされるかもしれない。国立大学としてどうするかという話と、それ以外の領域は私立に任せるというように切り分けて戦略を組み立ててもいいのでは」と提案した。

 さらに授業料や大学合格までにかかる費用については「現状の受験システムでは国立大学に入るまでの過程で非常に高額なお金がかかる。そのため、『国立大学はどうあるべきか』という議論にフォーカスした上で推薦の枠を広げるなど、全体の改革が必要なのでは」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)

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