東京博善は、値上げの理由を「ガス・電気など燃料費の高騰と、火葬炉の維持メンテナンス費用のため」と説明している。火葬技師1級を持ち、葬祭場で働いていた経験のある下駄華緒氏は、「火葬炉内は傷んでいく」と説明する。棺を載せる台車は、高温にさらされて劣化するため、定期的に取り換える必要がある。火葬前に「金属製のものを入れないで」というのにも理由がある。「台に溶けた金属が張り付くが、この台は1日に2、3回使う可能性があるため、取り除かないといけない」。とはいえ「上げ幅は明らかに大きい」と、下駄氏は指摘する。
また、鶴見大学で政治学を教え、時事問題にも取り組む非常勤講師・倉西雅子氏は「中国資本が入ってきたことが大きな変化のきっかけ」と指摘する。東京博善の経営を実質握っているのは、家電免税店で知られるラオックスグループだ。2019年に東京博善の株を取得し、2022年には保有権40%を超える筆頭株主となった。確かに経営体制の変化と値上げのタイミングは合致している。
「独占優良企業だった東京博善の株は投資家にとって魅力的なもの。中国は古来の土葬から火葬に転換する方針を近年示している。良いのか悪いのか別にして、中国の火葬業界をリードしたい思惑があると考えられる」
渋谷区議会では、海外資本と料金変更の関係が追及されたが、渋谷区生活衛生課長は「永続性や非営利性の観点からそこを判断するべきものであって、資本で判断するべきではない」と、海外資本でも問題はないとの考えを示した。
葬儀会社・佐藤葬祭の佐藤信顕代表取締役は、「葬儀をビジネスだけで考えちゃダメだ」と、公益性の観点から警鐘を鳴らす。「9万円で、もうけが5000円なら、みんな納得できる。しかし、もうけが6万円と言われれば納得できない」「人の命の終焉を担う仕事には民間、公営問わず『公益性』が求められる」と力説する。
東京23区の火葬場MAP、特殊な成り立ち

