「托卵妻」という言葉がある。SNSを中心に目立ち始めたもので、主に既婚女性が夫とは別の男性と関係を持ったことで妊娠、出産したケースを指す。カッコウなどの鳥類が、他の鳥の巣に卵を生み付け、親鳥に雛を育てさせる「托卵」からきており「他の男性との子どもであることを隠し夫に育てさせる」という現象が人間にも起きている。『ABEMA Prime』は、大人になってから健康診断をきっかけに、自分の母が托卵妻で、本当の父が別人であったことを知った当事者を直撃。その苦悩と、増加する托卵妻の実態に迫った。
■増える既婚女性の不倫と“托卵妻”「人が思っているよりずっと多い。6~10%」
数多くの托卵妻を取材してきたライター亀山早苗氏は「少し前は『托卵女子』という言葉があった。その場合は独身女性が既婚男性の子どもを生む。それが広がっていって、既婚女性の不倫も多いため、『托卵妻』になった」。2005年にイギリスで行われた研究では、25人に1人、約4%は父親が違うケースがあると発表したが、日本において亀山氏は「増えているし、本人にもあまり罪悪感もない。私が何人かの産婦人科医に聞いたところ、人が思っているよりずっと多い。6%から10%に行くかどうかといったところ」と、取材に基づいた実態を紹介した。背景には「不倫関係が多くなり、そこに妊娠に気づくケースが多い。不倫相手のことがすごく好きで、この関係がもし終わっても証しを残したい、その子どもを育てれば彼のことが自分の心に残るということもある。さらに優秀な遺伝子が欲しいというパターンも最近、時々聞く」と様々な理由があるとした。
■健康診断で発覚 事実を知った息子「母に失望と嫌悪感。『父には言わないで』と言われた」
自身が“托卵妻”から生まれたことを大人になって知ったという、うどん定食さん。きっかけは人間ドックだった。検査結果の説明を受けるために病院に行ったところ「申告していた血液型と検査結果の血液型が違うと言われて、そこで違和感を持った」。なぜなら本人が聞いていた両親からの血液型からは、検査結果で聞かされた血液型の子どもは生まれるはずがないからだ。両親に聞いていた血液型の間違いか、それとも病院で取り違えがあったか。母に電話で確認をしたところ「最初はもう黙りこくってしまって…。少し間が空いて『この話は父には言わないでくれ』と言われ、少しずつ実はこういう話があったというような説明を受けた。最初はすごく驚いたが、徐々に母への失望というか、嫌悪感みたいなものが出てきた」と、事実を聞かされた直後の様子を回想した。
血液型に関する違和感を覚えた後でも、すぐに不倫を疑ったわけではなかった。「不倫は一番可能性が低いと思っていた。(両親は)今も昔もずっと仲がいい。ただ万が一ということもあるので、母親に聞いた方がいいかなと連絡した」というほど、家族間の関係は良好だった。それだけに母から「父に言わないで」と伝えられても、それを受け入れ「家族がこれまで築いてきた和を乱したくないと思った。いきなり重たい十字架を背負わされたような、知ることによって不幸になっている感覚が自分の中にある。それを父や弟に伝えて、その人達も不幸にしてしまうのは避けたい」と、母に言われた通り秘密にすることを決めた。
不倫相手との子であるという現実は、自分という存在を揺るがすものだった。「喪失感というか、自分が自分だと思っていたものが、自分じゃなかったと言ったらいいのか。うまく表現できないが、アイデンティティをなくしてしまったというような気持ち。母親に対しても嫌悪感が出てきた分、そういった人から自分が生まれてきてしまったということの残念さ、自己嫌悪みたいなものもどうしても抱いてしまう。自分自身のことも受け入れてあげられるかどうかも考えてしまう」という葛藤が、今も続いている。
■知らずに育ててくれた父に感謝「子どもが事実を知っていて、かわいそうと思っている事実もまたかわいそう」
何も知らないとはいえ、実の子ではない自分を育ててくれた父には感謝しかない。「とても愛情を持って育ててもらった。それが実の子供じゃなかったと言われたとしたらどう思うか。今、私も父親の立場なので…。父はかわいそうだが、子供が父の知らない事実を知っていて、父をかわいそうと思っている事実が、またさらにかわいそうだなとも思う」。うどん定食さんには弟がいるが、その弟は父と母の子だ。今でも4人で集まることはあるが「その場にいる時は全部忘れようと思っていて、母にも逆にそうお願いしている」と、これまで通りに接することを求めた。
一方で、実の父親のことについても調べた。「不倫をしておいて、のうのうと生きていることが許せないと思って、いろいろ調べ出した。名前などは知っているが、会ったこともなく顔も知らない。会いたいとも思わない。不倫をしておいて、生まれた子供に対して何もケアしてない事実がある。そこに対して責任というか義務みたいなものを、何か考えて生きていないんだろうかという疑念がある」と、強い嫌悪の念がある。
■“托卵妻”の心理を取材「女性側は『子どもは自分の子』。相手男性が誰とか気にしていない」
托卵妻となった母は、果たしてどんな思いでいるのか。亀山氏は取材していて「あまり相手がどうという意識がない」という声を聞いている。「女性にとっては、やはり『子どもは自分の子』。相手(子の父親)がどうという意識があまりない。自分の子なのだから、夫は一緒に育ててくれてもいいのでは、みたいな感じ。騙しているという意識がそこまであるのかなと思う」と述べた。さらには「別に托卵妻の味方をするわけじゃないが、言わなかったのではなく、言えなかったというのもある。望んで生んだ子なのだから、うどん定食さんも自己嫌悪に陥るようなことになってほしくない。人によっては魔が差すようなこともあるし、不倫をしてしまった人のことをそこまで悪く言いたくない気もある」と続けた。
法的に見れば、托卵妻に対して慰謝料請求を行うことも「可能」だという弁護士の見解もある。秘密にしていた期間・発覚の経緯・自覚などにもよるが、最大400万円程度(平均250万円)と見られる。裁判事例もあり、不倫相手との子と知らずに嫡出子として出産・届出、事実を隠して離婚調停を争い養育費等の支払いが成立したものの、後に托卵であることが判明、夫に精神的苦痛を与えたとして慰謝料400万円が払われた。
うどん定食さんは「今の自分があるのは父親のおかげだと思っているので、その前提でいくと言わないでいてくれてよかったかなとは思う」としたものの、不倫という行動そのものについては「不倫はしないでほしいです」と、きっぱり言い切っていた。
(『ABEMA Prime』より)
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